第11話
少しの間の事だったのに、長く感じられる時間に戸惑いながらも、蓮君が腕を離すまで私からは動かなかった。
蓮君の腕の中は、心地よくて、安心出来てしまう。
ゆっくり体が離れ、間近で蓮君の顔があって、視線がぶつかった。
蓮君から、目が離せない。
近づいてくる顔に、身動きが取れなくて。
あと数センチ。
キスされる、と思って目を強く瞑る。
でも、蓮君の唇らしき感触は、唇には当たらなくて、代わりに額に何かが当たる。
「ごめん、友達はこんな事しないよね……でも、我慢出来なかった」
またごめんと謝り、蓮君は困ったように笑った。
抵抗しなかったのも、距離を詰めるのを許したのも私だ。
「でも、唇にするのは我慢した」
真面目な濁りのない目でまっすぐ見つめられて言われ、指で唇をなぞられて恥ずかしくなり、俯いた。
蓮君に上着を返してお礼を言って、二人でリビングに戻った。
相変わらず楽しそうにはしゃぐ陸と、ワイワイしているみんなの輪の中に戻る。
楽しくて、楽しすぎて、この時間が長く続けばいいのにと願ってしまう。
そんな私に、蓮君がまたいつでも一緒に食べよう、と優しく笑ってくれる。
それが嬉しくて、また泣きそうになるのを堪えて、代わりに頷いて笑った。
両親が忙しくて、夕飯は陸と二人でとる事が多かった。
だから、この大勢で賑やかな晩御飯が、すごく楽しくて、嬉しかった。
けど、一度楽しいと思ってしまったら、慣れてしまったら、寂しくなって、悲しくなる。
その感情は、怖い。
陸にはそんな弱い私を見せる訳にはいかない。陸はもっと寂しいはずだし、私はお姉ちゃんだから。
今までもそうやってきた。
だから大丈夫だ。
弱気になるな、自分。
楽しい時間はあっという間で、帰る時間になるけれど、少し困った事になった。
「僕……帰りたくない……」
陸が私の服を掴んで、涙を浮かべながら小さく呟いた。
陸の目線に合わせるようにしゃがむ。
「陸、楽しかったんだよね。お姉ちゃんも楽しかったよ。でも、帰らなきゃ……」
何と言えば納得するのか。陸はほとんどわがままを言わないし、駄々をこねる事がない。
だから、どう言えばいいのか分からず、困ってしまう。
ちゃんと言わないといけないのも分かってるけど、私は昔から陸が可愛すぎて、両親から見ても溺愛しているみたいで、どうしても強く言えないのだ。
「陸。お姉さん困らせたらダメよ。私も、陸とお別れするの辛いけど、我慢してるんだからっ……」
次は莉音ちゃんが、陸の手を取って言う。その目は潤んでいた。
駄目だ。可哀想過ぎて、見ていられない。
「よし、じゃぁ陸君、お父さんお母さんに聞いてみて、いいって言われたらお泊まりする?」
陸と莉音ちゃんの手を片方づつ取り、蒼さんがにこやかに言った。
「はいはいっ! 私もお泊まりしたーいっ!」
「同じく」
「じゃ、俺もー」
次々に志願者が現れる。
「よし、じゃ、みんなでお泊まり会だっ!」
蒼さんのまとめの声を最後に、お泊まり会が決まってしまった。
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