第9話

みんな揃ったところで、ほとんど料理の準備は出来ていたらしく、ご飯まで自己紹介がてら話をする事に。



リビングのソファーに促されて座る。私の隣には素早く場所を陣取った、蓮君が物凄く密着して座る。



お茶の用意をする蒼さんの手伝いをしようとしたけれど、すぐに止められてしまった。



引き下がらない私に、蓮君はいつも通り気だるげに「峯崎さんが行くから」と言った。



確かに、蓮君が言う前に、いつの間にか蒼さんの隣で手伝いを始めていた唯。



蓮君を見るけれど、微笑んだだけでそれ以上何も言わなかった。



手伝いが二人もいたら邪魔になると思い、渋々大人しく座る。



「ねぇ、冴香ー。唯って、蒼さんみたいなタイプが好きなのかな?」



莉央奈から突然そう問われ、自然と二人を見ると、確かにいつものクールな唯からは見られる事が少ない、優しいというか、可愛い笑顔が見られた。



「あれは、恋する子の顔だな」



「さっすがー。タラシな頼が言うと説得力あるー」



「莉央奈ちゃん、ちょっと失礼だよ君。俺はタラシじゃなくて、フェミニストなんだよ」



言い聞かせるみたいに言う桂川君の話を、莉央奈は「はいはい」と適当に受け流していて、それにまた桂川君が食い下がる。



「何の話?」



お茶の用意を持って、唯と蒼さんが戻って来る。



桂川君の話の流れで、恋愛や男女の話になる。



私はその辺には経験がなく、疎いので聞く側に回っていた。



同じように、聞かれたりしない限りは、蓮君も黙って聞いている。



「蒼さんは彼女さんいらっしゃらないんですか?」



唯が蒼さんに聞いた。



蒼さんは苦笑しながら口を開く。



「俺は恋愛はいいかな。バイトと大学で忙しいし、何より面倒だからね」



「忙しい割に、兄貴は何気に女と遊んでるよな」



隣で蓮君が呟いた。



「家に連れてくるわけじゃないのに、蓮はよく見てるよな」



「えー、蒼さん遊んでるんですかー?」



莉央奈が笑いながら言うと、少し困ったように笑う。



「まぁ、お互い気楽な方がいいからさ。心にも体にも、ね」



言った後、声をトーンを少し下げる。



「ただね、蓮や莉音にはちゃんとした素敵な恋愛をして欲しいと思ってる。うちの両親も大恋愛して、いまだに気持ち悪いくらい仲がいいし、みんなが幸せになればそれで十分だ」



自分はどうでもいいみたいな言い方に引っかかりながら、蓮君を盗み見る。



何とも言えない顔で、兄を見ている。



「えー、じゃぁ、蒼さんは恋愛する気ないんですか? もしかして、過去に何か物凄い事があったとかっ!?」



「あはは、まぁ、生きてればそれなりに色々あるよね。俺の話は特に面白いものもないから、はい、これで終わりっ!」



両手を合わせてパンッと叩いて、自ら話を終わらせる。



えーっと不満そうにした莉央奈を、桂川君が宥める。



莉央奈は凄い。



人が聞き辛いような事を、何の躊躇もなく口に出来てしまう。



前に一度、莉央奈が今のように深くを聞こうとした子が「何で人が触れて欲しくない事を、そんなに根掘り葉掘り聞いてくるのっ!?」と怒った事があった。



すると、莉央奈は真剣な顔でまっすぐその子を見つめて「今聞きたい事を聞けずに、後悔するのはもう嫌だから」と答えた。



そういう所を嫌がる人もいるけど、私は莉央奈の物怖じしないところとか、正直に堂々としている所が好きだった。



私にはない部分だ。



そして、唯が蒼さんを見ながら、一瞬だけど少し悲しそうな顔をしているのを、私は見逃さなかった。



やっぱり唯は、蒼さんをそういう目で見ているのか。



そうだとしたら、恋愛を好まない蒼さんを相手にするのは難しいのかもしれない。



友達の恋愛は応援したいけれど、私に何か出来る事はあるだろうか。

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