第7話

教室で、次の授業の用意をしている私の目の前には、もうだいぶ見慣れた光景が広がる。



最初の頃はザワついていたクラスの人達も、ほとんど気にする人がいなくなるくらいには、自然になったようだ。



とはいえ、まだ蓮君達のファンの子達からの視線が痛い時もあるけど。



「へー、お兄さんと妹いるんだー、何かそう言われたら想像つくかもー」



「確かに。那茅場君、真ん中って感じするよね」



「莉音ちゃんしっかりしてるから、蓮はしょっちゅう怒られてるよな」



私の左斜め前は元々唯の席で、左隣の席の人は休み時間でいないので莉央奈が座り、前の席に座る蓮君の横に桂川君が立っている。



最近はこれがみんなの定位置だ。



幼稚園での一件の話になり、莉央奈が一番に食いついた。



「いいなぁー、私も行きたーい。美味しいご飯食べたーい」



「確かに、那茅場君の家族に興味あるな」



「みんなで行っとく?」



「おい、何で俺の家に行く話をお前が勝手に決めるんだよ」



那茅場家に興味を持った唯と莉央奈に、桂川君がけしかける。



それに不満そうに文句を言う蓮君。



「別にいいじゃん。そうさんもおもてなしすんの好きだし、許してくれるって」



桂川君が蓮君の肩を叩きながら言うと、蓮君の不満そうな顔に磨きがかかった。



「んな、怖い顔すんなって」



「桂川君凄いよね。私那茅場君の表情で、今何処が変わってるのかよく分からないわ」



「だよねー。私もレンレンの眉毛動くくらいしかわかんなーい」



唯に同調して言う莉央奈の、蓮君の呼び方に最初は物凄く嫌そうに「それ何? やめてくんない?」と言っていたのに、いつまでもやめない莉央奈に諦めたのか、最近はあまり何も言わなくなった。



「そうかな、蓮は何だかんだで、結構表情豊かだと思うよ? ね? 冴香ちゃん」



相変わらず桂川君が私を名前で呼ぶ事には、いまだ納得していないみたいで、また不満そうな顔をする。



「うん、よく笑うし、よく拗ねる、かな」



私が言うと、蓮君以外の三人がニヤニヤし始める。



「やっぱり運命だー」



「だね」



「マジでびっくり」



口々に言われ、顔が赤くなるのを感じる。



「赤くなった冴香も可愛い」



私の方を向いて、前の席に頬杖をついて座っていた蓮君が、私の頬を突ついた。



その微笑んだ優しい顔に、心臓が大きく反応した。



凄く激しくドキドキ言っている。



さらに顔が熱くなる。



「いいなぁー、私も彼氏欲しー」



彼氏じゃない。なんて言う事すら言えないくらい、いっぱいいっぱいだった。



そんなこんなで、お兄さんの許可がすんなりと下りたので、みんなでお邪魔する事が決まった。



みんなでワイワイするのは嫌いじゃないし、陸も喜ぶだろうから有難いけど、何故だか物凄く緊張してきた。



別に友達の家に行くだけなのに、今の私は変だ。



休み時間が終わって、授業が始まってからも、当分私の顔の熱と心臓の高鳴りは、なかなか収まってはくれなかった。

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