第3話
向かい合って立つと、改めて彼の顔が見える。
女の子に慣れてそうで、気さくな印象の桂川君より柔らかい雰囲気なのに、基本無表情だからか、近寄りづらく感じる、無気力で不思議な人。
さっきの周りの反応を見るに、二人とも人気で、よくモテるのだろう。
「さっきの付き合ってってやつ、俺冗談とかいい加減に言ったわけじゃないよ」
「で、でも、私達、さっき初めて話しただけだし……好きになる要素が……」
「確かに、どこが好きかって聞かれたら、正直はっきりしないとこはあるよ。でも……」
揺るがない目で、まっすぐ射抜かれる。
彼のこの目からは、逃げられる気がしない。
「この子だって、匂いがしたんだ」
「匂い?」
「動物は相手を匂いで判断するって言うでしょ? あんな感じかな。自分でもよく分からないけど、俺の直感は当たるから」
物凄い自信。
反論すらさせないような彼の雰囲気に、言葉が出ない。
この柔らかい雰囲気から、何故威圧感みたいなものを感じるのだろうか。
「で、でも……私、蓮君の事、知らないし……急に付き合うとかは……」
「ゆっくり俺の事知ってけばいいじゃん」
そういう問題じゃない。
でも、桂川君が言ってた通りの人なら、多分引き下がってはくれないんだろうな。
「じ、じゃぁ……とりあえず……友達、なら……」
「男女の友達って……何?」
物凄い質問をされてしまった。
どう答えるか迷っている私に、影がかかる。
顔を上げると、蓮君がやたら近くに迫っていて、驚きのあまり後ろに下がる。
その距離をどんどん縮められ、いつの間にかまたも壁に追いやられていた。
「男女に友情なんて、あるの?」
「え?」
「だって、男と女はそんな綺麗事でいれるような関係性じゃないよね」
彼の言おうとしてる意味が分からない。
いくら男女であっても、全ての関係が必ずしもそういう関係になるとは限らないだろうに。
「少なくとも俺は、男女の友達っていうポジションから、性的な関係にならなかった奴を一人も見た事がない。仮にいたとして、必ずどちらかが関係を壊すって思ってる」
彼の中では、男女間の友情は存在しないんだ。
完全に彼の言う事が正しいとは思わないけれど、でも、納得してしまう部分もある。
頭がこんがらがってきた。
「で、でも、さすがに突然付き合うとかは、無理、ですっ……」
「その“友達”ってのを、どのくらい続けたら、彼女になってくれる?」
「そ、そんなの……分からないよ」
言うと、彼は眉を顰めた。
「うーん……難しい……」
本気で悩んでいる姿が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
少しして、何かを思いついたような顔で私を見た。
「好きになってもらえるように頑張れば、付き合ってくれるって事だよね?」
「す、好き、なら……」
「付き合う?」
「まぁ……」
「じゃ、頑張る。絶対好きにさせるから」
固く決意した顔で、拳を握る蓮君に苦笑するしかなかった。
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