第一章

第4話

妙な友達関係が出来てから、蓮君はよく私に会いに来るようになった。



今日は何故か、お弁当を一緒に食べる事になった。



みんなで食べるはずが、二人にされてしまった。



「相変わらず眠たそうだね」



「うん。特にご飯の後は眠い……授業出るの、面倒くさい……」



大きな欠伸をして、カクンカクンと頭を動かして、目を閉じてしまう蓮君。



「膝、貸して」



「え? ちょっ……」



何も言っていないのに、あっという間に膝に頭を置いて目を閉じる。



振り落とす事が出来ない私は、仕方なくこの状況を受け入れる事にした。



緩やかな風が吹いて、校舎から生徒達の楽しそうな声が木霊する。



平和な時間だ。



目を閉じている蓮君の顔を眺めてみる。



何度見ても綺麗な顔。可愛い系でもあり、格好いい系でもある。両方を兼ね備えたイケメンだ。



そんな人が、ただの“匂い”だけで、こんなたいしてパッとしない私なんかに。



「変な人……」



「よく言われる」



突然言葉が帰ってきて驚いた。



「お、起きてたの?」



「いや、最初はガチ寝してた」



目を閉じたままだった蓮君の大きな目が、ゆっくり開く。



相変わらず眠そうで、気だるげだ。



「膝枕ってさ……何か……エロいよな」



「……は?」



突然何を言うのか、この人は。



最近知ったけれど、彼はたまに突拍子もない事を言うから対処に困る。



「だってさ、こっち向いたら、簡単にスカートの中に手が入るじゃん」



「っ!? な、何をっ!?」



「入れないよ。ただそう思っただけ」



寝返りを打って、私に背を向けた蓮君は、次に私の方へ体を向けた。



「あ、こっち向いたらお尻触れるね。やっぱエロいな」



「蓮君っ!」



「はいはい。すいませんでしたー」



特に反省しているようには聞こえない声を出し、蓮君はまた元の体勢に戻った。



違ったのは、目が開いていて、私をジッと見つめる。



「な、何?」



「でも俺はこの体勢がいい」



「え?」



気だるげなのは変わっていないけれど、何処か真剣な顔をして、蓮君は続ける。



「君の顔がちゃんと見える」



まっすぐ見つめられると、心臓がドクンと揺れる。



イケメンの言葉の破壊力にタジタジになっていると、蓮君の長い腕が伸びてきて、髪に触れる感触。



「友達って距離感難しいって思ってたけど、今はちょっと厄介だなって思う。近い存在なのに、超えちゃいけない線がある。うーん、もどかしい……」



ショートボブの私の髪の先をクルクル指で遊びながら、考えているような、難しい顔をしている。



「ねぇ、まだ付き合うの駄目?」



「ま、まだ、です……」



この質問を何度もされ続け、テンプレのように返事をする。



「俺、格好いいらしいよ?」



「……ん?」



「モテるし」



「…………」



突然何だろう。自慢かな。



「キスも、エッチも上手いんだって」



駄目だ。全く意味が分からない。



「今なら何と、甘いチョコレートも持ってます。そんな素敵な蓮君にチョコレートもオマケに付いて、すぐに手に入っちゃう。お買い得ですよー?」



チョコレートを見せながら、真顔で言う蓮君。



これは、どういう事か。



「ぷっ……あはははははっ!」



やっぱり彼は変わってる。



「笑った……」



「くふふっ、はぁー……え? 何?」



涙を拭いながら、笑いの余韻が残る中、蓮君が言った小さな言葉を聞き返す。



「可愛い」



「っ!?」



こういう事をストレートに言ってくるのも、恥ずかしくてしんどいからやめて欲しい。



「やっぱり俺、君の事欲しいな……」



見つめられて、蓮君の瞳が揺れる。



心臓が、うるさい。



しょっちゅうこうやってドキドキさせられて、心臓によろしくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る