エピローグ
第29話
グラウス様と会えない日が続いて、早くも二ヶ月が過ぎようとしていた。
私は毎日寂しく日々を過ごしている。
その間にも、アレアド様やカイシュ様が忙しなく訪れるので、少し疲れを感じてしまっていた。
「さすがに顔に疲れが出てるね」
「だってあの二人、隙があれば触るし迫るから、逃げるのが大変なんだもん……」
テーブルに突っ伏して、疲れた頭を落ち着かせるように目を閉じる。
「はい、温かい紅茶でも飲んで、一息入れて」
ジェードが入れてくれたお茶を一口飲んで、ホッとする。
「そう言えば、近々旦那様と奥様が一時帰宅されるようだよ」
「今回はどのくらい滞在するのかな」
「まぁ、そんなに長くはいられないだろうね」
焼き菓子をつまみながら、紅茶を喉に流し込む。
両親が帰宅しても、滞在する期間は短い。それでも寂しくないのは、両親の大きな愛情はもちろん、ジェードやアリヤ、レニータ達がいるおかげだ。
更に数日後、書庫で本を漁って読む。
この場所は大好きな本がたくさんあって、静かで落ち着く私の好きな場所の一つだ。
「今日は何を読もうかな……」
ハシゴに登り、高い場所の本を取って目を通してはまた戻してを繰り返していると、扉が勢いよく開かれた。
「私の可愛いセレアは何処だい?」
まるでオペラの舞台にでも登場するかのような声が響き、そちらを見るとキョロキョロしている人物が目に入る。
ハシゴから急いで降りると、私の姿を見つけるや否や、抱きすくめられる。
「あぁ、私の可愛いセレア。その愛らしい顔を、よく見せておくれ」
そう言って抱きしめた腕の力を緩めた父が、優しく微笑んだ。
「おかえりなさい、お父様。お元気そうで何よりです」
「ああ、セレアも。会わない間に、ますます綺麗になったね」
父は改めて私を抱きしめて、嬉しそうに笑った。
父と共に母のいる部屋へ向かうと、ジェードとレニータがお茶の用意をしていた。
母が私の元へ駆け寄ってきて、抱きしめられた。
甘い香りに包まれ、私達は久しぶりに親子の団欒を満喫していた。
すると、父がジェードに何か言い、ジェードが薄くて大き目の本のようなものを持って戻ってくる。
それを目の前に差し出され、ニコリと笑う両親を不思議に思いながらそれを受け取る。
「これ、何?」
受け取りながら言うと、母と一度目を合わせてこちらを向き直った父が口を開いた。
「見合いをしてみないか?」
思考が停止する。
父は一体何を言っているんだろう。
何より、母は私に想い人がいる事をしっているはずなのに。
「ちょ、ま、待って下さいお父様っ! 私はお見合いなんてっ……」
「別にすぐに結婚しろだとか、どうこうなれと言っているわけじゃない。ただ、会ってみて欲しいんだ」
「でもっ……」
「まぁ、落ち着きなさい。向こうのたっての願いでね。私も彼には何度か助けられた手前、なかなか断りづらくて……。歳は少し離れているが、でも真面目で今どき珍しく硬派で、これがなかなかいい男なんだよ」
楽しそうにお勧めしてくる父に、私は何も言えずにいた。
すると、母が私の隣に移動して来て、手を優しく握った。
「一度だけで構わないの。会うだけ会ってくれないかしら? お父様の為だと思って、ね?」
そんな風に言われ、父に泣きそうな顔をされては私が断れる訳がなかった。
そうして、私はお見合いをする事になってしまった。
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