第25話
屋敷に足を踏み入れ、背後で扉が閉まる。
「ぅ、ひゃああっ!」
「なんちゅー声出してんだよ」
「だ、だって突然抱き上げるからっ……」
横抱きで抱き上げられ、黙って運ばれる。
グラウス様の部屋に連れて来られ、部屋の端にあるソファーに丁寧に降ろされる。
改めて手を握られ、隣に座るグラウス様の方を向いた。
「さて、お姫様、何で怒ってたんだ?」
「……言いたく……ありません……」
「だいぶ拗ねてるみたいだな。どうしたら、機嫌を直してくれるんだ?」
困ったように笑って、私の頬を撫でる優しい手の温もりに、愛おしさが膨らんでいく。
正直、機嫌なんてとっくに直っている。
ただ、彼に甘やかされて、特別に扱われる事が嬉しくて、つい意地悪な気持ちになる。
「たくさん、好きって……言って下さい……」
「そんな事でいいのか?」
「キスも……して、たくさん、触れて欲しい……」
私が言葉を紡ぐ間も、彼の指が頬を撫で、そのまま手で頬を包まれ、額、頬、唇へと小さなキスが落ちる。
「好きだ……セレア……好きだ……」
「んっ……グラ、ぅンっ、ん……」
ゆっくり唇が触れ、啄むようなキスから、徐々に深くなっていく。
何度も角度を変え、口付けが繰り返されていた唇が離れた。
「そんな蕩けきった顔で、誘ってんのか?」
「私はいつだって、貴方を誘ってます……」
唇にグラウス様の男らしい親指が這い、目の前の優しく妖艶に揺れる瞳にうっとりしてしまう。
「あの……聞いても、いいですか?」
「何だ?」
「その……いつから、私を?」
私の質問に、グラウス様が少し考えるような顔をして、目だけで天井を見る。
「そうだな……正直、ハッキリ何かあった訳じゃない。俺がどれだけ拒んでも、お前はめげる事も怯む事もなく、会う度に楽しそうに笑っていた。もちろん最初は鬱陶しくもあったし、何が楽しくて俺みたいな何倍も上の愛想のないおっさんと一緒にいたいのか、不思議で仕方なかった」
私の髪を指で遊びながら、時々それに口付けたり、私の指にキスを落としながらゆっくり話す。
その低音の声に、心地良さを感じながら彼の話に耳を傾ける。
「なのに、そのうちお前が笑うのが嬉しくなって、今日はどんな話を聞かせてくれるのかとか、どんな話をすれば喜ぶかとか。街に出て品を見れば、お前に似合うだろうなんて考えたり。いつの間にかお前が訪れるのを待っている自分がいた」
指が頬を滑り、額に口付けられ、抱き上げられた。
そのままベッドへ寝かされて、上にグラウス様がのしかかる。
まるで、逃げ場が奪われるかのように。
「ただ、お前と歳が離れているのもそうだが、俺は没落貴族と言われて、大した地位もない。そんな男と一緒にいても、お前が幸せになれるわけがない。そう思って、お前を意識しないようにしていた矢先、あのパーティーでお前に迫られたもんだから、一気にタガが外れた」
困ったように苦笑しながら、髪を撫でる手も見つめる目も優しい。
「それでも、熱に浮かされただけだと言い聞かせて、冷静な頭でお前に会って話したら、何か変わるかと思って会いに行ったら、お前は違う男の腕の中にいて。年甲斐もなく、嫉妬した。嫉妬なんて、生まれて初めてした。そっからは、もう歯止めなんてもんは消えてなくなった」
ふわりと微笑んだその優しい表情に、高鳴る心臓の動きが、もっと早くなる。
まさか彼がそんな事を考えていたなんて、全く知らなかったから驚いてしまう。
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