第24話

会場を出て、足早に廊下を歩く。



誰かに突然手首を掴まれる。



「セレア、待て」



ずっと恋焦がれ、求め続けている彼の声と体温。



手首から熱くなる。



「離して下さい」



「何を怒っているんだ? レティア姫も心配していた。そんな彼女にあんなに食ってかかるなんて、お前らしくないな」



まるで彼女を庇うような言い方に、また苛立ちが増していく。



私が悪いと言われているようで、胸が痛い。



「……私らしいって何ですか? 何をされても黙っていろと?」



「誰もそんな事言ってないだろ。何があったかは知らないが……」



「知らないなら貴方が口を挟む必要はないのでは? あぁ、彼女を皆の前で責めた事が気に入らなかったんですね。そこまで彼女を大切にしていたとは知りませんでしたわ、失礼」



「おい……」



頭に血が登り、口は止まらない。



「もう私に構わず、会場に戻られたらいかが? レティア様がお待ちでしょ? 私ももう貴方に付き纏って、お二人の邪魔をするような事は、今後一切ありませんからっ!」



こんな事を言いたい訳じゃないのに、我ながら本当に可愛くない。



最悪だ。



勢いで飲み干した物がお酒だった事に気づいたのは、飲み干した後だったから今更遅いけど、フラつく足にしっかり力を入れ、彼の手を払う。



すんなり離れた手。掴まれていた場所がやけに寒く感じて、鼻の奥がツンとする。



自分で突き放す様な事を言ったのに、離れたら後悔の波が襲いかかる。



泣くな、今は泣いちゃ駄目だ。涙よ流れないでと思うのに、涙は私の願いとは裏腹にボロボロと零れ落ちる。



グラウス様から離れるように後ろを向こうとした時、両頬が大きな手に包まれた。



「ちょっと落ち着け。ほら、泣くな……お前に泣かれるのは困る……」



「ひっ……ふ……ならっ、っ、放っておいたらっ……いい、じゃなっ……」



「阿呆か。お前は俺を、惚れてる女泣かせたまま放っておくような、最低男にする気か?」



サラリと言ったグラウス様の言葉に、驚きのあまり泣く事すら忘れる。



「ん? 何だその顔は。何か変な事言ったか?」



「惚れてるって……誰に?」



「は? お前以外に誰がいるんだ」



涙を拭うように、目元に指を滑らせた後、瞼に唇が触れた。



「……お前、まさか俺が何倍も年下の、好きでもない女を抱くような男だとでも思ってたのか?」



眉間に皺を寄せ、ジトリと見られて慌てて口を開く。



「だ、だってっ……好きなんて……言われてなかったからっ!」



「言わなくても分かるだろう。あれだけお前を甘やかしてたってのに」



「い、言ってくれなきゃ、分かりませんっ! だって、私はずっと貴方を好きだったから追いかけてたけど、貴方は……違うし……」



両手を包まれ、手を引かれる。



そのまま屋敷を出て、馬車へ促された。



「あの……何処へ?」



「俺の屋敷」



それだけ言って、黙ってしまった。



ただ、手はずっと握られたままだ。なかなか強く握られている。まるで、離さないようにしているみたいだ。



屋敷に着くまで、私の心臓は高鳴り続けていた。

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