第20話

大好きな紅茶の味がしない。



一人で悶々と考えているから、話も耳に入ってこなくて、愛想笑いになる。



「ご談笑中失礼致します。セレア様、グラウス様がいらしておりますが」



「あ……」



最悪のシチュエーションが出来上がってしまった。



私はレティアに待っていてもらい、足早にグラウス様の元に向かう。



屋敷の入口付近で壁に凭れ掛かるグラウス様を見つけると、はしたなくも浮き足立ってしまう。



「グラウス様っ!」



「おー、お姫様は今日も元気だな」



走りよる私の頭に軽く手を置いて、優しく笑う愛おしい人。



離れたくなくて、でもジェードがいる手前、抱きつく事も我慢する。



「執事君、少し外してもらえるかな?」



「しかし……」



「少しでいい」



グラウス様の言葉に、ジェードは仕方ないといった様子で私を一瞥し、一礼して去っていく。



それを見ていた私に影が差した。



「いい子にしてたか?」



腰に手を回して引き寄せ、体が密着する。



グラウス様の胸に手を当て、見上げると優しい笑みが近くまで来ている事に心臓が激しく動く。



低音の声に、体が熱くなる。



「酷い、子供扱いですか?」



「子供がこんなにいやらしい顔はしないし、俺は子供にこんな事をする趣味はない……」



「んっ……」



顔が更に近づいて、唇が触れる。



優しく触れて離れ、熱く視線が絡み合う。



言葉は交わさずに、強く唇が触れて絡み合う舌の熱さに、頭が痺れる。



「ンっ、ふっ、ぁっ……」



「少し離れただけでっ……こんなにも、お前が欲しくなるなんてなっ……」



「グラっ……ぅんンっ……」



嬉しくて、もっとして欲しくて、グラウス様の首に手を回してしがみつく。



夢中になっている私の頭には、グラウス様以外の事はすっかり頭から消えていた。



名残惜しむように唇が離れ、唇を軽く舐められてゾクリとする。



「そういえば、俺とこんな事をしていていいのか? 客がいたんじゃなかったか?」



自らの唇をペロリと舐める妖艶さに見惚れながら、唇にグラウス様の男らしい指が這い、体まで熱くなる。



そんな私の熱を下げるように、背後の扉が開かれた。



素早く体を離し、扉の方に目を向ける。



ジェードと共に、レティアが現れて、ドキリとした。



私の代わりにジェードが相手をしていてくれたようで、私はジェードを見る。



「放っておいて申し訳ありません、レティア様」



「いいえ、私こそお邪魔してしまいましたね」



私が歩み寄ると、レティアが優しく微笑み、その目がグラウス様に向けられる。



嫌だ、見ないで。



嫌だ。彼女を、その瞳に映さないで。



私の願いも虚しく、グラウス様はレティアの前に跪いた。



姫への挨拶をするのに、この世界では当たり前とされるであろうその儀式も、私には見るに堪えないものだ。



けれど、妻でも恋人ですらない私には、どうしようもできない。



レティアの手を取り、口付ける為に口元へ持って行く。



他の人を、触らないで。



直視出来ず、目を逸らす。



その瞬間、私の目が何かに覆われる。



手袋の感触がして、ジェードなのだと悟る。

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