第四章

第19話

こんなに上手くいっていいんでしょうか。



怖い。



浮かれてしまって、調子に乗って、あんな大胆な行動に出てしまった。



自分が、怖い。



幸いにも、ジェードには昨夜の事はバレていないようで、そこだけは救いだ。



ベッドでコロコロと転がりながら、余韻に浸っていると、微かにグラウス様の香りがした。



思い出される記憶に、また顔に熱が集まり、なんとも言えない気持ちになり、枕に顔を埋めて足をバタバタさせる。



推しとあんな大人な事をしてしまうなんて、しかも初めての全部を彼でと思うだけで、溶けてしまいそうになる。



彼と過ごしていく中で、推しという言葉を軽々とどんどん超えていって、私は彼を愛してしまっている。



彼は、好きだとか愛しているとか、そういう言葉を言わなかったから、本当に私をどう思っているのか、イマイチ分からない。



ナンパなタイプではないけれど、この世界で男女のアレコレの仕組みがよく分かっていない私からすれば、言葉がないのが不安で仕方ない。



基本一夫一妻制なのだろうとは予想しているけれど、それでも人によれば多少なりとも、男女遊びや妾なんかの関係も現代よりは濃いだろうし、その場だけの相手もないわけじゃないはずだ。



特に彼のような独身である立場なら、尚更だろう。



考えていると、どんどん憂鬱になってくる。



聞いたら、答えてくれるだろうか。



でも、良くない答えだったら、どうしよう。



聞くのが怖いけど、聞きたい気持ちもあって。



どうしたらいいんだろう。



悩んでいると、ドアがノックされる。



「セレア様、お客様がいらしてますが、お会いになられますか? ご気分が優れないのであれば、私からお断りしておきますが」



客だと聞いて、グラウス様を思い浮かべたけれど、ジェードにはグラウス様の時は必ず言うように頼んでいるから、客と言われた瞬間、違うのだと悟った。



客人は想像していなかった人物だった。



「会います」



私は自分の気持ちを引き締める意味を込めて、両頬を叩いた。



準備を整え、客人の待つ応接間へ。



部屋へ入ると、明るい笑顔がこちらに向けられた。



立ち上がった彼女は、淡い桃色のドレスに身を包み、柔らかそうな髪を揺らして微笑んだ。



「突然の訪問、失礼致します。ゆっくりご挨拶出来なかったので、近くまで来たものですから」



可愛らしく笑う主人公、レティアを見て胸がツキンと傷んだ。



私が読んでいた頃のこの世界ならまだしも、今の世界のこの子が、グラウス様を好きにならない保証はない。



もしそうなってしまったら、グラウス様はどうされるのか、私はどうしたらいいんだろう。



せっかくだからと、ジェードの計らいで、場所を移して庭でお茶をすることにした。



彼女とは同じ歳で、自分より女性らしいと分かってまた小さく落ち込む。



「私、前からセレア様とお友達になりたくて」



そんな提案をされ、驚いた。



本の中では絶対にありえない事が起こり、ますます心配になってくる。



こんなに可憐で女子力も高くて、お淑やかでお花の様な彼女に好意を向けられたら、グラウス様だって。

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