第12話

可憐な見た目に良く似合う、淡いピンク色で控え目な花柄が施されたドレスに身を包んだ、可愛らしい女の子。



「お話の途中で、申し訳ございません。初めまして、私レティアと申します」



丁寧にお辞儀をし、ニコリと笑う。



やっぱり主人公だな。確かに可愛い。この可愛さに、全ての男性が心を奪われる。



グラウス様もそうなのだろうか。



挨拶もそこそこに、心配になって、ついそちらに目を向けてしまう。



グラウス様が、カイシュ様とアレアド様と同じように、目の前のレティアを見ていた。



その目がすぐにこちらを見た。



目が合って、ドキリとする。



「どうした? 顔色が悪いな」



隣に来たグラウス様が、私の頬に触れる。



私は自然とグラウス様に寄り掛かる。



肩に手を置かれ、その温もりが愛おしい。



嫌だ。この人を、渡したくない。



「外の空気が、吸いたいです。連れて行って、頂けますか?」



「あ、あぁ。分かった」



小さく言った私の声に、グラウス様が反応する。



「大丈夫ですか? セレア様。グラウス様、私が……」



「いや、大丈夫だ」



名乗り出るジェードを制止し、グラウス様が私の腰に手を回し、連れ出してくれた。



軽く挨拶はしたものの、ちゃんと出来なかったのは、後でフォローを入れなければと思いながら、正直あまり彼女には会いたくない。



特にグラウス様がいる前では。



私は、自分が初めてこんなに貪欲なんだと知った。



自分が怖い。



こんな自分を、知りたくなかった。



こんな汚い、感情なんて。なくなればいい。



外に出て、風に当たる。頭が少し冷める気がする。



「大丈夫か?」



「ええ、ご迷惑おかけして、すみません」



グラウス様の目が、見れない。ぎこちなく笑うしか、今は出来ない。



どうか、私のこの醜い感情に、気づかないで。



こんなんじゃ、子供だって言われても仕方ない。



転生したって、やっぱりつくづく恋愛に向いてないのは変わらない。



「そろそろ、戻りましょうか。せっかく来て頂いたのに、何も……」



「おい」



普段より少し低い声が頭の上から降ってきた。



その声に、余計グラウス様を見れなくて。



すると、顎に指が触れ、上を向かされる。



「ちゃんと、こっち見ろ」



「っ!?」



情熱的な紅い目が私を射抜く。



頬にかかる髪を払うように、グラウス様の手が顔を撫でる。



「何があった? 話しにくいなら、さっきの執事でも……」



「グラウス様……私……」



見つめ合い、顔が近くにある。



この人は、何故私のものじゃないんだろう。



「どうした? 遠慮せず、何でも言ってみろ」



今日だけだから。今日だけは、ワガママになってしまいたい。



「プレゼントを……下さい……」



「ん? ははは、何だそんな事か。ちゃんと持って来て……」



「違います……私が欲しいのは、物じゃない……」



不思議そうにしているグラウス様が、私に近づく為に少し背を丸めているのをいい事に、私は彼の首に腕を回して背伸びをする。



何をされるか分かっていないのか、彼は動かない。



背伸びをしてもまだ背が高いせいで、なかなか届きづらいから、少し力を入れて引き寄せる。



「な……っ!?」



唇が触れる。



そんなに長くはないのに、長く感じるキス。



唇を合わせるだけの、子供みたいなキス。



唇を離すと、見開かれた目がすぐに細められた。



怒らせたのだろうか。



眉が寄り、険しい顔が私を見ていた。



「……ったく、どれだけ大人をなめたら気が済むんだ、このお転婆姫は……」



抱き上げられ、壁に追い詰められる。



壁に背を押し付けて抱っこされる体勢で、彼にしがみつく。



「煽ったのは、お前だからな……泣いてもやめてやらないからな……覚悟しろよ……」



「グラっ……んっ! っ、ふっ、ぁ……」



噛み付くような、食べられるような、乱暴なのに優しくて、気持ちいい大人のキス。



「んっ、はぁ、ふぁ……」



「一丁前にっ、エロい声……はぁ……出してんじゃねぇよ……」



「だって……ンぅ……はっ、気持ちぃ……」



一瞬口付けながら、グラウス様の体がビクリと震え、小さく「クソっ」と聞こえた。



どれだけ長いキスを繰り返していたのか、頭が朦朧とする。



体が熱くて、疼いて、身を捩り、グラウス様に回した腕に力が入る。



「ん? 何だ……感じてんのか?」



「やぁ……体っ……変なの……ぁっ……ジンジンっ、する……んンっ……」



足の間がジクジクして、お腹の奥がズクリとする。



口の中を犯す舌の熱さに酔いしれ、深く長いキスが終わる頃には、私の意識は薄れて行った。

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