第10話

大した経験をしない同じ歳の二人が、どれだけ考えたところで、いい案が浮かぶ訳もなく、ただ時間だけが過ぎていく。



そこへ、この屋敷に古くからいる、ベテランメイドのレニータが現れる。



「なにを悩んでいらっしゃるのですか?」



レニータは優しくて、面倒見もよくて、私達のお姉さん的存在である。



私は話していた事をありのまま話した。



すると、いつもの柔らかい笑顔で笑う。



「姫様は、そのままでも十分可愛いのですから、変に作らなくてもいいのですよ」



そう言って頭を撫でる。



「レニータまで私を子供扱いしてっ!」



「ふふふ、申し訳ございません。姫様が可愛らしくてつい。お転婆で大変だった姫様が、一人の男性への恋心に悩まれるくらい成長されていたなんて。姫様とこんな話が出来るようになった事が、嬉しいんです」



言葉の通り、本当に嬉しそうに微笑んだレニータに、釣られるようにアリヤと私も笑った。



「そうだわ。姫様、丁度いいイベントがあるじゃありませんかっ!」



「あ、ほんとだわっ! レニータの言う通りですよ姫様っ!」



二人が盛り上がっている意味が分からない私は、首を傾げる。



そんな私の様子を見て、二人がまた笑った。



そうだ。後数日すれば、私は十八になる。



また一つ大人になるのです。



意識はとっくに成人してるんですがね。



そして私の父は、ジェードにも負けないくらい過保護で有名なので、誕生日を盛大に祝ってくれる。



そう。それはもう本当に盛大に。



毎年誕生日になると、物凄く大きなパーティーを開いてくれるのだ。



たかが十代やそこらの小娘の誕生日を祝いに、大勢の客が訪れるから、そこまで高くない地位の貴族であろうとも、馬鹿には出来ない。



本当に金持ちの気持ちは分からないものだ。



でも、多分半数はタダで飲み食い出来るから来ているんだろうなと、数年かけて気づいた。



大人とは、そういう現金なものなのだ。



「じゃぁ、今年もレニータのケーキが食べられるのっ!?」



「ええ。姫様が喜んで下さるなら、お作り致しますとも」



レニータの作るケーキは物凄く美味しい。



あんなにも美味しい物を、私は食べた事がない。



そう思える程、美味しいのだ。



今から考えても、楽しみで仕方ない。



「というわけで、姫様の恋を成就させるべく、今年のパーティーはその方もご招待して差し上げましょう」



「姫様っ! 私も応援しますから、頑張って下さいねっ!」



やる気満々な二人に負けないよう、今日から少しの間ではあるけれど、しっかりお肌と自分磨きをしなければ。



なんて、柄にもなく浮かれていた。



だから、忘れていたんだ。



ついにこの日、彼女が初登場する事を。



招待状を作っていたジェードの手にあった、一枚の招待状の名前を見て息を飲む。



何度も本で見た、キラキラ輝いていて、まるで可憐な花のようで、明らかに皆が愛するであろう愛らしい少女。



そう、彼女の名前は“レティア”姫。



この世界の主人公だ。



本の中でセレアが、彼女をいじめ倒すのだけれど、私には出来ない。



「その方が、気になるの?」



ジェードの口調が二人きりのそれになる。



私は別にと誤魔化した。



そして、その日がやってきた。

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