第二章
第9話
街は凄く栄えていて、見渡す限りお店がたくさんあって、出店のようなものも並んでいた。
「わあぁーっ! グラウス様、これだけたくさんお店があると、どれから見て回るか迷ってしまいますねっ!」
「はしゃぎ過ぎだろ。ったく、変装した意味ないな。ほら、素が出てんぞ」
初めて見るものが、あまりに楽しくて忘れていた。
私は今姫ではなく、少年なのだ。
「おや、グラウス様じゃないか。今日は一人じゃないんだねぇ。まさか、息子……」
「ち、違うよ、知り合いだ」
通りすがる度に、店の人がグラウス様に話しかけていく。
没落貴族だと噂があり、本人もそれを自傷気味に話す時があって、街での彼の印象がそれとは全く比例していなくて、どこか安心する。
「皆さんに、愛されてるんですね」
「そうか? まぁ、最初はそうでもなかったけどな。色々手伝ったり、関わってるうちにってところか」
体が大きくて、堅物で少し気難しい見た目が、少し怖く感じるのに、面倒見がよくて、優しくて、少し照れ屋。
そんな彼が、みんなに好かれないわけがない。
その後も声を掛けられながら、色々見て回った。
そして、一つの店で足が止まる。
「……綺麗……」
「どれだ?」
後ろから私の横を覗き込む彼の声が、耳元で響く。
「っ……ぁ、の……これが……」
私の目に入ってきたのは、ガラス細工施されたペンダントのようなものだった。
緊張しながら指差す。
「これはね、オルゴールにもなってるんだよ。ほら、ここをこうやって回して」
店主が説明してくれる。
裏にある小さなネジのようなものを回すと綺麗な音色が聞こえてくる。
「これが、欲しいのか?」
「い、いえ、大丈夫ですっ!」
私は基本お金などは持たせてもらえないので、欲しくても買えないのが事実。
名残惜しいけれど、店主に謝り店を離れようとした。
「おやじ、これもらうな」
「まいど、いつもありがとよ」
そんな声が背後からした。
振り向くと、グラウス様が何かを手にしてこちらへ歩み寄ってくる。
「ちょっと向こう向いてみな」
言われるがまま、グラウス様に背を向けて立つ。
グラウス様が私を後ろから抱くように、一瞬だけ手が回される。
また心臓がドクリと動く。
「よし、出来た。いいぞ」
首に掛けられたのは、先程のペンダントだった。
「グラウス様っ! これは……」
「まぁ、何も言わずにもらっとけ」
「でも、あの、いけません、グラウス様っ!」
「いいから、ガキが遠慮すんな」
ガキ。
子供。やっぱりグラウス様からすれば、私は子供なんだ。
それでも、ちゃんと女として見て貰えるように、やれる事はやりたい。
意識してもらなきゃ。せっかく転生したんだから。
とは言ったものの、何をどうすればいいのか。
私は自分の屋敷に帰った後、仲良くなった歳の近いメイド、アリヤに相談する。
彼女は私の想い人である、グラウス様の事をよく話す。
「そうですねぇ……。ここは一つ、色仕掛けとかいかがですかっ!? お可愛い姫様なら、女の色香でイチコロですっ!」
「うーん……でも、子供だと思われているのに、それが通用するかしら……」
「そうですね……確かに子供だと思われているのはよろしくないですね……。まずはそこから考えなければ……」
二人で唸る。
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