第8話
私を女として見てないなら、いいだろうと思って言った言葉だったけれど、反応は想像していたものとは違った。
「あのな、いくら何でも女の着替え手伝うのは……色々、駄目だろ……」
「……じゃぁ……お出かけは……」
何としてでも、デートは成功させます。
その為なら、嘘泣きだってして見せますとも。
一応この世界では、悪女設定なのですから。悪女が嘘泣きくらい出来なくてどうします。
涙を溜めつつ、上目遣い、知りうる限りの女の武器を駆使しながらおねだりする。
「わ、わかった、わかったからっ!」
ぶっきらぼうで、冷たい印象だった最初の頃とは違い、押しに弱い優しい人。
元々そういう性格なのだろう。
新しい顔が見える度、どんどん好きになる。
部屋を変えて、丁寧に着替え方を教えてくれる。
意外に面倒見がいい。
「次、この紐をこうやって」
「なるほど、こうなってるんですね」
「着てみると意外に簡単だろ? つか、何でもっと簡単な服にしなかったんだ? わざわざこんなにややこしい服選ばなくても」
適当に選んで持ってきたし、男装の方がいいと思って、男物にしたから、どんな服かなんていちいち細かく見ていない。
「最後に腰のこれを……」
「ふふ、くすぐったいっ……」
「こら、動くな」
サワサワとグラウス様の手が、腰辺りを動き回るから、くすぐったくて身動ぎする。
それを阻止するように、グラウス様の手が腰を優しく固定する。
「ゃ、んっ……」
体がビクリとして、吐息が漏れる。
「っ! へ、変な声出すなっ……」
「だ、だってくすぐったい、からっ……」
「くすぐったいって声じゃないだろ……。ほら、後は自分で出来るだろ」
そう言ってグラウス様は部屋を出た。
自分でもまさかこんな感じになるなんて思わなくて、顔が熱くなる。
「私の、バカっ……」
両手で顔を覆った。
でも、少し触れただけなのに、感触は離れてくれなくて、グラウス様のあの大きな手が触れた腰に、自分の手を当てる。
「……自分のとは、全然違うな……」
頼りがいのある、暖かくてゴツゴツした男の人の手。
好きな人の、手。
「もっと……私が色っぽくて、綺麗で、大人なら……」
自分の手を見つめ、握りしめた。
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