第7話

今日も今日とて、愛おしい推しに会いに来てしまいました。



昨日の今日でまさか私が来るとは思っていなかったのか、グラウス様は切れ長の綺麗な目をまん丸にして、驚いていた。



「懲りないお姫様だな、まったく……」



「褒め言葉として受け取っておきますわ」



今日も推しが素敵だ。



何だかんだ言いながら、グラウス様は今日も中へ入れてくれる。



ほんとに好き。



本を読んでいた時には気づかなかった事が多くて、益々魅力的で、好きな気持ちが募っていく。



「お姫様は、こんなしょっちゅう来て、一体何の用なんだ?」



「用がないと来ちゃ駄目ですか?」



グラウス様を見上げると、少し困ったような顔で頭を掻く。



「別に駄目じゃないが……ただ、特に面白い物があるわけでもないだろう」



「グラウス様がいます」



私が即答すると、目を丸くしてグラウス様は固まる。



私は何か変な事を言ったのだろうか。



「私は、グラウス様がいるから来ているんです。面白さなどは求めてません」



「ふっ、はははは、ほんとに、変な姫様だな」



笑った。グラウス様が、笑った。



胸が高鳴る。素敵すぎる。



もっと、たくさんの時間を一緒に過ごしたい。



転生して、グラウス様と過ごすようになって、本で読んで推していた時とは違い、ただの推しとは違う感情も生まれてきていて。



屋敷から出た事がなかった私が屋敷を抜け出し、この辺りに初めて来て、好奇心が勝ってしまい、森で迷っていた時にグラウス様に出会った。



足のかすり傷まで手当してくれた時の、ぶっきらぼうなのに優しいグラウス様に、夢中にならないわけがなかった。



個人的にどタイプで推せる、というのももちろんだけれど、嫌そうにしながらも私を毎回受け入れてくれる彼にゾッコンなのだ。



客間に案内され、出された紅茶に口をつける。



「しかし、何がよくてこんな何も無い場所に足繁く通うんだ? 俺がいるからといって、俺は何も出来ないが」



「はい。私はグラウス様と一緒にいられるだけでいいんです」



浮かれながらもしっかりグラウス様を見る。



またも驚きに目を見開く。



ポカンとした顔も、最近はよく見られる表情だ。



凄く、可愛い。



「……こんな年の離れたおっさん相手に、何を言ってるんだ、このお姫様は……」



微かにだけど、グラウス様の頬が赤くなったのは、気のせいじゃないはずだ。



可愛すぎる。



「そうだわっ! グラウス様、街へ行きませんか?」



そう、やっぱり街デートは欠かせない。



「街に?」



「はいっ! 私実はあまり屋敷から出れなくて」



「お姫様は大変だな」



「お姫様はというよりは、執事が許可をくれなくて」



「あぁ、なるほどな。過保護なわけだな」



確かに、ジェードは過保護だ。



外に出たのが分かれば、何が何でも探し出して連れて帰られてしまう。



だから、ジェードが用事で出かけてる時を狙って屋敷を出る。



ありがたい事に、ジェード以外の屋敷の者達は口が固く、そのおかげでジェードにはバレずにいる。流石と言ったところだ。



「お転婆だな……。普段から執事も手を焼いてるんだろうな……」



「失礼な。とにかく、私街へ行って色々見て回りたいんです。お付き合い、して頂けませんか?」



考えるように唸って、顎を撫でている。



後、一押しだ。



「御一緒してくれないなら、一人でも行きます。私普段ここへ来る以外は、一人でどこにも行った事がないから、迷っちゃうかも知れません……もしかしたら、誰かにどこかへ連れていかれてしまうかもしれ……」



「だぁーっ! 分かったよっ! 着いてきゃいいんだろ……ったく、女はつくづく面倒だ」



最後の言葉が何を示したのかは分からないけれど、とりあえずは上手くいった。



「だが、お前そのままの格好で大丈夫なのか? 一応いいとこのお姫さんだろ?」



「ご心配なく。ちゃんと変装道具は持参しておりますので」



「準備のいいことで……」



部屋を一室借りて、着替える。



けれど、ここで問題が発生。



「これは……どうやって着るの?」



服の構造が、思っていたのと違った。



しかも、こちらの世界に生まれてから、着替えはいつもメイドさん達が着替えさせてくれていたから、余計だ。



「こ、困った……」



せっかくグラウス様が承諾の返事をくれたのに、このままじゃそれがなくなってしまう。



それだけは、絶対に避けないといけない。



「こ、こうなったら」



私は部屋から出て、グラウス様のいる部屋へ。



「ん? どうした?」



「あの……着方が……分かりません……」



半泣きでグラウス様に言うと、彼は目を丸くする。



「あー……困ったな……」



「あ、そうだっ! グラウス様、手伝ってください」



グラウス様が持っていた本を落とした。

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