第6話
少しの間庭で過ごし、まだ見ていない部屋の一つに私は手をかけた。
我ながら、大胆な事をしたなと思う。
「そこは見ても何も楽しくないぞ」
「グラウス様の過ごされている場所なんですから、楽しいで……す……」
扉を開けた私は固まる。
そこは質素ではあるものの、男の人らしい寝室だった。
これだけ大胆に動いている私だけれど、前世でほとんど異性との接点すらなく、恋愛経験など皆無に等しい生活をしていた私の思考が停止するには十分だった。
顔から火が出る思いだった。
そんな私をよそに、固まる私の肩に優しく手を置き、ノブを握った私の手の上からもう片方の手を添えて、扉をゆっくり閉めた。
「寝室見ただけで固まるとは……お転婆姫はまだまだ初なお子様だな、まったく……」
苦笑する彼に、頬に熱が集まり、赤いままの私は見惚れてしまう。
どこまでも熱に冒される私は、どうかしていたのだろう。
「私……子供じゃありません……」
離れたはずの彼の手を握り、彼の目を見つめて、そのまま胸に持っていく。
もちろん子供じゃないのは本当だけれど、彼にとって今の私は何歳も年下で、十代の子供なのだろう。
それでも、意識して欲しい、女として見て欲しい、私だけを見て欲しい。
どんどん欲が溢れ出す。
自分がこんなにはしたなくて、欲深い人間だとは、知らなかった。
驚きを表したものの、すぐに真剣な顔をする。
そして、私は強い力で壁に背中を押し付けられる。
顔の横に彼の腕が伸び、壁に手をついた彼が、私の顔に近づく。
壁ドンだ。
不謹慎にも、初壁ドンに感動しながら、険しい顔をした彼の顔を見る。
鼻がつきそうな距離で、彼の鋭くなった目と声に、緊張が走る。
「あまり大人をからかうと、そのうち痛い目に会うぞ。分かったら、もうこんな事するな」
咎められ、グラウス様が離れた途端、足の力が抜けて、床へへたり込む。
小さなため息が頭上から聞こえた。
「あー……やりすぎたか……怖がらせて悪かった……」
私の前にしゃがみ込み、優しく「立てるか?」と尋ねるグラウス様を見る事もなく、私は静かに頷いた。
そう、彼は知らない。
私は怖くて座り込んだのではなかった。
心臓がまるで生き物のように高鳴り、体に熱がこもり、震えた。
手の温もりと、迫力ある低い声と、獣みたいな男の目、そして、初めてちゃんと知った彼の香り。
私はこの時、欲情していたのだ。
それに気づくのは、もう少し後の事。
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