第5話
迷惑そうにしている割に、律儀にお茶を出してくれる所も、愛おしくて仕方なくて、ニヤけてしまう。
「ニヤニヤするな、気持ち悪い」
「まぁ、レディに対して気持ち悪いだなんて、失礼ですね」
「その割には嬉しそうだな」
最初よりだいぶ崩した口調になったのも手伝って、どうしてもニヤニヤが止まらない。
「本当に君は不思議な姫君だ」
少し離れて座る彼が、柔らかく、ふっと笑った。
頬に、顔に熱が集まる。
初めて見る笑った顔が、想像していた以上の破壊力で、たまらなかった。
今の私の顔は、多分相当酷い顔をしているだろう。
顔を隠すように俯き、両手で顔を覆う。
彼が近づいてくる気配に、私は勢いよく立ち上がる。
「お、お家の中が見たいわっ!」
「っ!?」
私の突然の申し出に、拒否する勢いをかっ攫われたグラウス様が、絶句して「あ、あぁ……」と返事をする。
侯爵の屋敷にしては、お世辞にも広いとは言えないけれど、私にすれば十分広かった。
この場所で、彼はたった一人で暮らしているんだ。
「グラウス様は……寂しくないのですか?」
私は一人で暮らす寂しさを、十分過ぎるくらい知っている。
「元々誰かと連む方ではないし、特に何も思わない。慣れているしな。君には分からないかもしれないが、一人の方が気楽だ」
一瞬驚いたような顔をしたけれど、そう言ってチラりとこちらを向いた。
特に何もなく、部屋を案内してもらい、私はふと目に入った庭を見て、胸が躍った。
走り出した私の背中に、彼の声がするけれど、気にする事なく目的地まで一直線に向かう。
「わぁ……綺麗……」
前の世界で、こんなに綺麗に咲いた花達を見る事すら叶わなかった生活をしていた私は、目の前に広がる花達に夢中になっていた。
「急に走るな。転んで怪我でもしたらどうする」
仕方ないとでも言いたげな声音が耳に届き、いまだ感激が止まない私は、彼を振り返り、はしゃぐ。
「この場所、凄く素敵ですっ! こんなに素敵な場所があるなんて……」
「大袈裟だな……君の屋敷にもこの位のものは、あるだろうに」
「残念ながらうちの屋敷には、生花は一本もありません」
私の父は、花に対して前の世界で言う「アレルギー」というやつなのだ。
お話の世界なのに、アレルギーとは夢も何もあったもんじゃないなと、幼いながらに思ったものだ。
それと同時に、前の私は完全に消え、今のこの世界が私の現実で、全てなのだと悟った瞬間だった。
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