第3話

カイシュ様とお茶をしていると、賑やかにドアが開かれた。



「これはこれは、王子。まーた油売ってるんですか? お暇でいいですね、時期国王様は」



「やぁ、アレアド。君も仕事放ったらかしでよくもまぁ毎回毎回来るよねぇ。いいよね、公爵様は暇で」



今にもバチバチと音が鳴り、火花が散りそうな程に、二人は無理矢理笑顔を貼り付けながら、それはそれは牽制し合っている。



モテた事がない私には、この瞬間が1番いたたまれなくなる。



二人を苦手な理由はこれも含まれていた。



そして何より、私にはこの二人を好きにならない一番の理由があった。



前の私が読んでいた絵本は、短い話ではあったけれど、平和で、女の子がみんな憧れるような素敵な主人公と王子との恋愛が描かれていた。



この世界に来て初めてこんなバチバチな関係もあるのかと知ったのだけど。



私が悪女にならなかったせいなのかは分からないけれど、ちょっとしたハーレムのような感じになっていて、少し居心地が悪い。



主人公が登場すれば、落ち着いてくれるだろうか。



そう願いたい。



けれど、平和な日常を求める傍らで、私には少し不安もあった。



それが、目の前で騒いでいる二人を好きにならない理由だ。



「セレア様、大丈夫ですか?」



「え? あ、ええ、少しボーッとしてしまっただけよ。心配しないで」



不安そうに私の顔を至近距離で覗き込むジェードに、私はいつものように微笑んで見せた。



「執事君、ちょっと近すぎやしないか?」



アレアド様の不満そうな声が耳に届く。



「そうだぞ。前々から思っていたが、君は少々セレアに馴れ馴れしすぎる」



続いてカイシュ様が不服そうに言った。



それに満面の笑みを浮かべたジェードが、二人から私を隠すかの様に立ちはだかる。



「私とセレア様は、主と執事の前に家族ですので、近いのは当たり前でございます」



家族をやたらと強調しながら、二人に喧嘩を売るジェードは、いつもながらの度胸に感心する。



こんなやり取りを見るのは嫌いじゃないけれど、私は早くこの屋敷から出なければならなかった。



あの方に、会うために。

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