第10話 心象兵器。
心象世界……やっぱりこの世界はグラフティデイズ3の世界なんだなって思ってしまった。いままでアルバイトして学校行って……普通に人生やり直しているだけなんじゃないかって錯覚してしまっていたから感動している俺がいる。
が……正直ゲームでもこんな心象世界は見たことがない。しかもコンテニューもできない難易度も分からない、ストーリーも既に逸脱してて主人公が怪異に取り憑かれているとかもう先の見えない状況となってしまった。
「えぇっ!!?何ここ!!ってかあっっっっっつ!」
そう言って騒いだり、熱い暑いじゃなくて熱いと不満を垂れたり『マグマだ!初めて見た』とかあっち行ったりこっち行ったり観光で忙しい清水さんをみてほっこりする。
炎司の名に炎があるから予想はしていたが……この心象世界は本当に暑い。遠くに火山とか溶岩とかあるし……靴とか溶けるんじゃないかって心配になる。今の持ち金で、靴を買うまでの余裕がないのだ。
しかし靴底が溶ける様子はない。
心象世界はある程度融通が利くようだ。まぁ……こんな暑い所に奥の方に見えるデカデカとそびえ立った氷の城がある時点でもうおかしいからな。
一通り辺りを見終わったのか清水さんがこちらにやってくる。
「それで、ここが心象世界……だよね?」
「うん、炎司の心象世界。滅茶苦茶暑い」
「バカで熱いところだけが特徴だったからね」
「あっ、そうですか」
「それで?ここで何するの?」
そう言われるとちょっとドギマギしてしまう。言葉が強いとはこの事だ。
「とりあえず、心象武器を出してみようか」
「心象武器?」
「心象世界でのみ現れる自分の心の形を表した武器の事だよ、ちょっと僕の出してみるね」
まずは自分の心象武器の出現を試みる。内心自分の心象武器が出せるって事でちょっとこう言うのワクワクしていたりする。
出し方はとりあえず……自分の過去を思い出して……過去……直近50年は家とコンビニの往復くらいしか記憶にねぇ……
そんな事を考えていると自分の手になにやら物体の感触があった。
手元に視線を向けるとなんかちょっと金属製の棒。本当に何の装飾もない棒。まぁなんか僕の身長より少し長いくらいの長さはあった。
「……なんだこれ?」
「言ってた心象武器って奴じゃないの?……棒だけど」
清水さん?なんかちょっとフッて笑わなかった?
確か変形して遠距離形態になるよな?遠距離形態は?どうやるんだ?
色々と触っていたら棒の先端辺りぐにっと変な方向に曲がってしまった。
なんやこれ……んんぅ?この形……まさかぁ?
そう思い反対方向も同じようにぐにっと曲がる。
するとどうだろう。弓の形を成しており、光の線が双先端を繋ぎ弓ができた。なんか形だけ弓であって、弓じゃなくね?というツッコミは置いておこう。
矢はエネルギー式の奴か、実質無制限じゃないか。
そう思い構えると光の矢が装填された。
視界には照準点が現れてとりあえず高いとこ目指してぱっとてを話すとマグマの彼方に飛んで行った。何度か射ってみて分かった事は少しズレたとしてもホーミングして照準点に向かうみたいだ。
なるほどなぁ。なんて言うか……地味だな。結局の所、棒と矢だし……ん?棒と矢?、ぼうとや、坊やって……ことぉっ!?
まさか心象世界に坊やだからさって言われてる気がしてならんな。前は確かに実家太かったけどさぁ~。安直過ぎない?
「ちょっと、さっきから何1人でわちゃわちゃやってんの?」
半睨みを効かせた清水さんの眼光が俺を捕捉し、これはやってしまったと気づかされ暑いのに悪寒が全身を巡る。
あっはい、ごめんなさい。真面目に忘れてました。
「あぁ、いやちょっと地味だなぁっと」
「まぁあんたらしいんじゃない?」
ですよねー。
「で、それどうやって出すの?」
「と、とりあえず。自分の過去を想像してそのイメージが具現化されるから」
「ふぅーん」
そう言って彼女は目を閉じ何かお参りの様に手を合わせパンパンと二拍する。
……なぜ?
俺が知っている清水優花の心象武器は防御特化の浮遊する盾2枚だ。味方の攻撃をオートマチックに防いだり反射したり先端から剣を出してのダイレクトアタックだったりと使い勝手が良かったイメージだ。
なにやら光の粒が集まり形を形成していく。……していく過程で既にこうなんて言うかちょっとおかしい。
ちょっと……いやだいぶ……大きくない?
形状が明らかにゲーム時の盾とは比較にならん位でかい。
「おぉー、ねぇねぇこれすごくない?」
重厚感のある2枚の大盾が、清水さんの周りをゆったりと浮遊し始めた。1枚にはガトリングが2機、もう1枚には巨大な砲身が搭載されている。どちらも僕の身長を遥かに凌ぐ大きさだ。その圧倒的な存在感に、僕は言葉を失った。
「すっげぇ……」
『なに君チート使ってんの?』って言いたくなるような圧倒的殲滅力と破壊力を有した兵器を持った心象武器が出てきた。機関銃と主砲だぞ、やけに火薬臭くなってきたな。
「これ、どうすればいい?」
「とりあえずあそこの山にめがけてぶっ放してみれば」
「どうやって?」
「発射って念じれば」
ごめん、テキトーに答えた。
「りょうかい~」
清水さん?目的忘れて少し楽しくなってない?
標準を合わせたのか『ハッシャー』ってちょっと可愛い口調で言った後、ものすごい轟音が鳴り響く。
どんな威力かとその先を見たとき僕は『あっこれがチート系異世界転生者の能力を初見で見た現地民の気持ち』というどうでも良い気持ちを理解した。
発射されたのは砲台を搭載している盾で、山の先端が消し飛んでいた。
「ねぇ心象武器ってこれが普通なの?」
そんな訳あるか
「これは異常、身近で使うとマジで危険だから遠距離だけね?室内で使っちゃダメ」
「……そうだね」
清水さんも流石の威力に顔が引きつっていた。
「とりあえず必要な能力はこんな感じ」
「それじゃ炎司救出に向かうんでしょ?」
「いいや。今日はここで終わり。次はまた週末に」
今日はバイトも入ってるし。僕も職を失うわけにはいかない。こっちも生活かかってるんだよ。
「はぁ?どういうこと?」
「早く助けたいのはわかってる。でも優秀な武器を持ったとしても僕たちは平和ボケした人間である事を忘れちゃダメだよ」
「どういう意味よ」
「清水さん、人型の怨霊が現れて撃てる?」
「怨霊なら……」
「……出てくるのがザ・ゴースト的な奴だけじゃなくて、普通の人っぽい奴もいるけど」
「……」
清水さんがそこで押し黙ってしまった。
よかった、僕だけじゃなかった。生き物っぽいもんに武器向けて平常心を保っていられる訳ないじゃん。僕がまず無理だからね。動物っぽい怨霊ですら心抉られるかもしれん。特に猫型。
「つまりそう言うこと。心象世界や怨霊・心象武器その他諸々慣れが必要だしここを巣食っているボス、ついでにこっちは死んだら終わり。って事は慎重に行くしかないよね」
「理解しているけどさ……」
あの山の先端吹っ飛ばした奴をその場で誤射されると死ぬからね?本当にわかってる?
「もちろん、それでもダラダラやってたら炎司の心意が食われちまう。今週で慣れて来週にはカタを付けよう」
「わかった」
「よし、それじゃ今日はもう帰ろう。とりあえず暑すぎる」
「わかった」
汗を拭いながらラティナを操作している清水さんは汗でシャツがスケルトンして可愛らしいブラに覆われたつつまし様がイエーイしていることに気づいてないご様子。
……ふむ、ここは言うべきか言わないべきか。男を試すときが来たな九。だが僕の中では答えが出ているわけだ。ここは気づかない振りをしてあげるのもきっと男の優しさだろう。家で風呂に入る際に脱衣前に鏡なんて見ないだろ?それで全ての証拠は抹消される。
……っというか普通に電車の超強烈冷房で普通に凍えてさすがに分かるし痴態さらすなこれ。
「あの清水さん。シャツすけてるから一旦乾かして戻ったら?」
「はっ?……えっ!?はぁ!?!?」
と自分の様子にようやく気づいたご様子。
「とりあえず僕はそこで隠れてるから乾かしといて~」
ガトリングが向けられる前に僕は近くの岩場に隠れることにした。
3バカは青春謳歌の夢を見る ~近未来RPG世界でゲーム進行改変して独自ルート突入します!~ 葱猫舞々 @y-chan001
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