第9話 心象世界。
翌日、昨日の土砂降りから見事な快晴に変わり、太陽が容赦なく水を蒸発させていくもんだから湿気の不快指数が高い朝を迎えた。
そしてこの日から清水さんが登校してきた。
傍から見るとそれっぽく元気に振る舞っているように見えるが、まぁみんな空元気なんだと察している。
まぁ直前まで炎司と一緒に居たのは彼女であって警察からも事情を聞かれただろうし……色々と疲れていたのだろうと察する。
……ふっと目があう。
「ちょっと後で話しようか」
いつもならときめくようなワードなのだが清水さんの顔が怒っている様に見えた。
多分アレだろうなぁ。
・・・
昼、ちょっと人気のない屋上手前の階段の所まで連れて行かれる。
いやここって生徒が告白する場所としてよく使う場所なんだけどちょっとドキドキする。
「ねぇ、昨日さ。炎司の家来てたよね、あれ何?」
「いやちょっと最後にどこに行ったのか気になって」
「人の不幸野次馬のように見に来たの?花火ちゃんに辛い事思い出させて……」
「本当に、それが必要だった事なんだよ」
「どうしてそう言い切れるの?その場所だって警察が調べて何も無かったって言ってたよ?」
うーん、僕は迷っている。
ここで正直に全部妖怪の仕業ですって言って信じて貰える訳がない。
ここは……そう設定的な何かを……ハッ!?
直感的に思いついたインスピレーション!
これはきっと信じて貰えるかもしれない!
「いや、正直ここだけの話。実は僕、霊能力者なんだ」
「はぁ……何言ってんのあんた。マジで頭おかしいんじゃない」
えぇ……ちょっと言葉のトゲおかしくない?一気に口調酷くなったよ?僕の心がブレイクしそうなんだけど。
「そうじゃないって。本当に心当たりがあって」
「あーうん。そういうの今さばける余裕ないから。そういうお遊びの場じゃないんだけど?」
このアマ……
「あーもう!なら1度騙されたと思って俺の言う場所に来てみればいい。まぁ……来ないのであれば一生炎司とは会えないけどね」
その言葉に彼女はムッとした表情をする。流石に俺もそこまで言われて気を悪くしない程聖人ではない。
「あんたさ、性格悪くない?」
「君がさっきまで言ってた僕への侮蔑の言葉に比べれば清廉潔白なんじゃないかな?」
「……」
「僕は彼に1食の恩って奴があるんでね。どんな手がかりでも検証して見つける事が目的だよ」
「……ごめん。ちょっと感情的になってた」
あっ、そこは素直に謝れるのね。偉い偉い。
「そ、協力してくれるって言うのであれば」
「分かった、協力する。なんでも言って」
回答早っ!?……ってかいま『なんでも』って言った?
「とりあえずじゃあ第二世冨慶の高台の公園、そっちに来て欲しい」
「……わかった」
-
放課後、流石に前回と違い早い時間から来ているから辺りはまだ明るい。
怪異も出てこないだろう。
「……結局何もないよね?」
「あぁ、今は何も無い」
懐疑的な表情で俺を見る清水さん。
「僕、レティナないからそっちで見てほしいんだけど、なんか入れた覚えのない文字化けしたアプリが入っていたりしないか?」
「レティナ持ってない人初めて見た……」
「諸事情があってね」
金がないという諸事情がな。
「……ちょっと見て見る」
そう言って清水さんはコメカミを2回タップしてスイスイとスクロールする仕草をとる。
まぁいきなり自分がいつも使っている端末に変なアプリが入ってるって言われたらちょっと怖いよな。
「……っえ」
「どうやら、ビンゴかな?」
指をパチンと鳴らし自身の勘の良さを自身で褒める。
清水さんは頬をポリポリと掻いて呟く。チラッと俺を見て口を開く。
「えっと……焼肉割引券当たってた」
君ぃ、紛らわしいことしないでほしいな。僕格好つけて「どうやら、ビンゴかな?」キリッとか言った羞恥心がジワジワとやって来るんだよ。
「あっ本当に……あった」
「それ今押しちゃダメ」
「う、うん」
「これ押したら起こる事を説明するよ」
そう言って屋根付きの休憩所の方で向かい合いながら座る。
立ちながら話すとか今日1日中カンカン照りだったから熱いのよ。
「さて、これからあのアプリを起動させたら何が起こるか。こことは違う別世界に移動する」
「はぁ……?」
あり得ないって思わせるような開いた口が塞がらない顔で俺を見る。
清水さん?……お前頭おかしいんじゃね?って思ってない?
「あぁ一応特定の場所だったらアプリ使ったら元に戻れるからそれは安心してほしい」
「あ、うん。分かった」
一応冷静に返して、それとなく雰囲気を察してくれたようだ。
「で、その世界は心象世界って言われてて持ち主の心の中の世界って訳」
「と言う事は……炎司の心の中の世界?」
「そう。っで、ここは僕の予想なんだけど炎司は公園に行ったときに怪異に遭遇して心象世界を乗っ取られたんだ」
「心象世界を乗っ取るって……どういうこと?」
手を頭で頭を支え目を閉じ色々と考えているみたいだ。
まぁ無理もない余り聞き慣れない言葉や現象が目の前にあるのだから。
「つまりは心の活力を盗まれているって事だね。でも普通取り憑かれたら霊能力者やユタが退治してくれるでしょ?」
「まぁ……一般的な感じだったらそうだね」
「ある程度頭の回る怪異はそれすらさせないって事。肉体を心象世界に閉じ込めて活力の底が尽きるまで搾取し続けるって感じ」
「……っ!そうだったら炎司は今心象世界にいて怪異に殺されそうになってるって事じゃない!早く助けないとっ!」
立ち上がりすぐにアプリを起動させようとした所を手を掴み止めさせる。
「なんでっ!邪魔しないで!」
「君は無駄死にたいの?」
そう言うとはっした顔で僕を見て、ごめんと言って静かに座る。
「心象世界が怪異に乗っ取られたとき、怪異にまとわりつく怨霊が襲ってくるんだ。これが厄介なことに数がいる。君1人でどうこうできる物じゃないよ」
「じゃあ……どうすればいいのよ。目の前に炎司がいるのに助けられないってこんな……」
泣きそうな顔で清水さんがゆっくりと座る。
うーん、この調子で世界の説明や武器や能力の説明したら日が暮れてしまうんだが……
実は僕今日バイト入ってるし、ここら辺早めに終わらせたいのよ。
顎に手を当て考える。
「うーんまずは慣れることが優先か……」
想像だけで恐怖するより一旦行ってみて世界になれたほうが手っ取り早そうだ。
入り口辺りだったらすぐにアプリ起動して帰れるしね。
「よし、色々説明するより体験して慣れてみようか」
「……はっ?さっきと言ってることちがくない?」
表情を歪ませ俺を睨む彼女。
あれはあなたが突っ走ろうとしたからだよ?まぁ言わんけどさ。
「まずは心象世界はどういった所か、自分達の心象武器はどんな物か確認する所から始めよう」
「心象武器?」
「それは心象世界に行った後に説明するよ」
「わかった」
清水さんはレティナを操作しこう言う。
「いくよ、押しちゃうよ」
「あぁ」
……あっ、そうだ忘れてたアプリ起動者に触れとかないと置いてけぼりになるんだった。
そう思ってとっさに彼女の手を掴むともんのすごい勢いで振り払われた。
「……なに、セクハラ?」
清水さんからとんでもない殺意を感じる。ゲームの時、主人公が似たような事したけどここまで怒らなかったぞ。
「忘れてた触ってないと一緒にいけないのよ」
「えー……なら肩とかにして指一本なら許可する」
「解せぬ……」
とりあえず人差し指を彼女の肩に乗せる。
「それじゃ、押すよ」
「うっし、炎司の心象世界、拝みにいこう」
景色が歪み真っ黒になったり時空の狭間のようなごちゃごちゃした何かが視界に映りまた真っ暗になる。
視界が次第に明け、目の前には辺りを覆うマグマの池や燃える草木、焦土が広がり、さらに赤く熱された城壁、しかしそんな風景と逆転する巨大な氷の城が姿を現した。
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