第2話 ざまぁとは人生の最後に言ってこそ価値がある。

 話をしよう。


 小学校までは神童しんどうと言われていたんだ。正直友達だって沢山いた。

 中学校になってからなにを間違ったのか僕に暴力をし始めてきた。


 きっかけは些細な事だ、僕が読んでいたライトノベルをひったくりからかい始めた奴らから本を奪い取った。

 それが気に入らなかったみたいだ。その日から奴らの遊び道具として精神せいしん磨耗まもうし続ける日々が続いた。


 今まで一緒に遊んでいた友達もすぐ裏切って指さしあざ笑った。

 日に日に過激になっていく中、



 僕はキレた。



 中学3年の夏、主犯と3階の教室窓から一緒に落ちた。

 主犯は意識不明、僕も両腕折れたり肺やらに肋骨刺さったりした重傷だったね。

 死ねなかったのが残念だがそいつを意識不明にできたのが最高だった。

 しっかり寝てしっかり生きろよ。大切な時期を寝て過ごしてカスみたいな人生を送れよカスって今でも思い出すと笑えてくる。

 それからは色々と明るみになり、学校のいじめ問題の追求や同級生がどうとか色々と始まった。

 だが僕は引きこもった。今まで助けを何度も求めた、でも誰もその手を取らなかった。だから僕が強制的に引きずりこんでやった。最後の力を振り絞った。

 だからもう引きこもる。現実は糞だ。二次元は至高だ。それを言い続けすでに40年近く経った。

 現実を逃避し親からも兄弟からも見放され。いつの間にか50歳を過ぎ、もう正確な年齢すらも分からない。


 ああああああああああああ


 ・・・

 ・・

 ・


 薄暗い部屋で最初は意気揚々と書き始めたのだが昔のことを色々思い出して

 キーボードが次第にその音を奏でることを止めてしまった。


「はぁ……」


 承認欲求しょうにんよっきゅうを求めてやろう小説を書いてみたら自己紹介を書いてしまったでござる。

 思い出したくも無いものを思い出して勝手に傷ついて書く気が失せた。

 僕には異世界転生いせかいてんせいしたらしいたげられた少数民族で義理の妹と成り上がりながらイチャイチャチュッチュするストーリーを書く才能は無いみたいだ。

 イジメ描写なら詳細に書けるぞ。僕の身を削った描写は多くの人間が涙し同情してくれるだろうが僕が死にたくなるから止めよう。


 椅子の背もたれに全体重を預け背伸びする。


 色々とイヤなことを思い出しちゃったからな。

 ちょっと舌が酒になってしまった。

 不安は強い酒で払拭するのが1番だしコンビニに買いに行くとするかな。


 クローゼットから適当な外着に着替えて外へ出かける。


 -


 コンビニでハイアル9%グレフル味500mlを6本とチータラを買って外に出てる。

 早速1本を開けて飲みながら家路を辿る。


 深夜の月や車のライト、深夜営業している店の明かりを見つつ缶を傾ける。

 くたびれたスーツを着たサラリーマン、道脇で吐いている酔っ払い。

 夜の2次会で騒いでいる個人パブ。

 帰り道だけで色んな風景を肴に飲む。つまみはチータラだけだしな。

 目線を動かすと深夜にやっているゲーセンに目がとまった。


 替えの電球が無いのか、パチパチと電球が点滅している。看板も所々サビや汚れで隠れている。

 外から見る限り筐体も昔ながらの物しかなさそうだ。よってこのゲーセンはそこまで儲かってなさそうだと印象づけた。


 そういや夜と言ったらおもろかったゲームがあったな。なんだっけ……グラグラ……グラフティデイズ3だ。

 夜の街に現れる怪異に取り憑かれた人々の心意を取り戻すRPG。

 主人公と幼馴染みの過去設定が僕に親近感を持たせてくれて1番プレイしたRPGだった。

 続編が出てきてないのが残念でならない。

 僕も主人公みたいにあんな青春ラブコメやりたかったなぁ……いやでも過去のあれはぁ……うーん嫌と羨ましいがせめぎ合ってる。


 ……そんな事を考えていると


「み、みつけた!!」


 なんかじゃがれ声が聞こえたと思ったら間髪を容れず後ろから強い衝撃をうけ、前に転がる。

 そのせいで缶が路上に転がり中身の液体の流れるシミが路面に広がる。


 何が起きた?背中が熱い。


 背中に熱を感じ、次第にそれが痛みと認識し叫びを上げる。

 後ろに居るそいつはすぐに僕に近づき倒れる僕を仰向けにして馬乗りの状態になった。暗くて姿がよくみえん。

 だが何かしら刃物みたいな物を持っている事は分かった。

 熱くなっている箇所から滲み出てる水分のような何かが衣服に染み出てるような感触がある。つまりは出血していると言うことだ。


「お前のせいでっ!!お前のせいで!!!俺の人生滅茶苦茶にしやがって!!」


 こいつから発せられたのか唾液が飛んで俺の顔につく。


 あぁこのじゃがれ声、なんか聞いた事があると思ったら……あぁ、あいつか……くっくはぁ……起きたのかぁ?マジで!?。


 そう思うと恐怖と言うより笑いがこみ上げてくる。


「あ、あっはっはっはははは、おはよう、起きてたんか?気分はどうだ?」


「お前お前お前お前えぇぇぇぇぇっっお前のせいでえぇぇぇぇぇぇっっ!!」


 くっせぇ腐敗腐敗臭の息が僕の鼻腔を通る度に嫌悪感が増す。


 姿が暗くて見えんが何日も風呂に入っていないのか?汗のにおいと生ゴミのにおい、小便の匂いすら感じる。それだけでこいつが普段どんな生活をしているのか想像がつく。


「自業自得だろ?皆お前が悪いって責任押しつけてたぞ?」


 あぁ俺を見てあざ笑う奴らは都合が悪くなると皆口を揃えてあいつに脅されてって言ってたぞ。

 口なしって言葉は本当におそろしいよ。皆の駆け込み寺になって良かったなぁ!

 お前の仲間は皆お前を裏切った。僕と同じ目に遭ったんだからな。


「うっせぇうっせぇ!!そんなのどうでもいい!!お前だけは許せねぇ!!絶対に!!許せねぇぇぇぇ!!」


 あぁ、こいつはもう意思疎通すら放棄して僕を殺したいのか。

 なら最後のトリガーは自分で引いてやる。

 最後までお前の意志で殺させない。


「殺せよ。僕は今まで十分わがままに生きてやったぜ?殺したところでお前の惨めな人生は変わんねぇよ」


 あいつは意味不明な叫び越えを上げて僕の顔面めがけて包丁が振り下ろされた。


「ざまぁみろ」


 -


 はっと気づくと僕は真っ白な空間に居た。

 すぐに顔や背中を触りめった刺しにされた傷が無いことを確認する。

 傷が無いことを確認し辺りを見回すとどこまでも続く地平線、白い床に白い空。


 ここが天国?まじで?天国なんて本当にあったんだな。


「やっ!」

「うぉっ!?」


 僕の目の前に唐突に白い埴輪みたいな奴が現れた。

 めっちゃ伸縮性やら弾力があるのか表情や手がぐにょぐにょ変わる変わるし跳ねる跳ねる。


「僕は~……最神もがみっていうんだ。いやぁ、ちょうど君が死ぬ間際のところに遭遇してねぇ。ちょっと面白そうだったから見学してたんだよ」


 埴輪はにわはぴょんぴょんと跳ねながらそう言った。

 なんて悪趣味な奴だ。相手にしない方が身のためだな。早く話を切り上げよう。


「あっそ。まぁ最後にざまぁって言えたし悔いはないがな」


 ガハハと笑うがこの世とさよならってのは少し寂しい気もする。


「折角カッコイイ散り際演出できたのに途中からめっちゃ叫んで泣いてて助け求めてたのたのちょっと笑っちゃったよ」


 手を口に当てながら笑っている仕草を取る埴輪はにわ

 ぐっ……そんな所までじっくり見てんじゃねぇよ。


「おい、人が忘れようとしてたこと思い出させてんじゃねぇ」


 埴輪はにわの目の部分が弧を描き笑顔を作っていた。


「人が人の手で殺すんだから即死はあり得ないよね。普通考えればわかることじゃない?クスクス」


 こいつ人が殺されてんのに笑うとか頭おかしいんじゃ無いか?


「あぁ、楽しませてもらった代わりに1つ仕事を依頼しても良いかな?」

「いや、働きたくないので結構」


 おっと、昔からの僕のプロ無職っぷりが出てしまった『働く』と言う単語がでると自動的に『嫌だ』と言うオートマチック。

 その反応の早さに流石の埴輪はにわも驚いたようだ。


「判断が速すぎるだろぅ。折角異世界転生できるんだよ?君達は異世界転生が夢って言ってるじゃないか」

「どんな終末世界だよ。そんなこと言ってるのは一部だ一部。それに僕は十分この世界をわがままに生きたし未練もない」


 マジで実家太かったから働かなくても金の心配無かったしな。


「はぁ~、君みたいなのも珍しいよね。余計転生させたくなっちゃったよ」

「ツンデレ過ぎるだろ。マジで止めろよ」


 そうしてなんか色々と手ぐるぐるさせ始めた。なんか子供のケンカの時に出るアレみたいだ。


 しばらくそれを見ていると次第に高速化して……宙に……浮いただと!!?


「よし、君の記憶を参照させてもらった」


 よくわからんパフォーマンスでやってることえげつないんだよなぁ……

 勝手に人の頭を見るなんてプライバシー侵害なんだが?いやもう死んでるからそもそも適用されるのかな?。なんか悔しい。


「君はグラフティデイズ3の世界に転生するんだ」

「だから必要無いって………はぁ?」

「おやぁ?その様子じゃ興味ありの反応だね?」

「一応……興味は……ある」


 そりゃ僕は青春コンプレックスこじらせた童貞だぞ?興味無い方がおかしいよ。


「オッケー分かった。じゃあそっちに……って面倒な奴らがいるなぁ、まぁ~とりあえずこんな感じにしとこか陰キャって感じで」


 なんか最後チクチク言葉言われた気がしたが色々と勝手に進められているみたいだ。なんか胴体が宙で上下左右に素早く動き回っている様を見て八頭身のアスキーアートが音楽に合わせて滅茶苦茶回っている動画を思い出した。


 そして唐突に止まった。


「よしおわり!君には作中最強のスキル持たせているから好き勝手チートするといいよ。それじゃーね!」

「はっ???えっちょっっっ!!!!??」


 進行が早すぎるだろ!ちょっとまってそもそも誰に転生すんの???その最強のスキルの使い方は??説明責任を放棄してんじゃねぇ!!!


 次第に暗くなっていく視界に僕の声は届かなかったみたいだ。



 -



 僕は目を覚ました。

 視界がぼやけている。何度こすっても視界がぼやけている。

 少し考えて解を導き出す。この身体は目が悪いのだと。


 とりあえずボヤケ具合がものすごいのでベッドの周りを手をかざして探る。

 すると枕の隣にあったメガネを拾い上げ装着する。近くにスマホもみつけた。

 朝日の光がカーテンの隙間すきまから漏れている。


 久し振りに朝を迎えた感じがする。

 いつもは昼夜逆転ちゅうやぎゃくてんの生活が数十年続いてたから本当に久し振り過ぎる。


 辺りを見回すと綺麗に片づけられた室内を見渡す。

 どこかの家の一室だろうか?

 視線をベッドの横に置かれている組み立て式のローテーブルに向けると少し茶色い封筒が置いてある。

 それを引き寄せ手に取る。

 私立春風台総合学園高等部入学案内しゅんぷうだいそうごうがくえんこうとうぶにゅうがくあんないという資料が置いてある。宛名に九条くじょう九と書いてある。くじょうきゅう?読み方が分からん。


 名前のことはとりあえずいいや漢字さえ分かればどうとでもなるだろ。

 この学校はゲーム、グラフティデイズ3で主人公が通う学校の名前だ。

 僕もその学校に入学できる事にうれしさと希望を感じてしまう。


 とりあえず入学の期間までまだ時間がある。

 まずは色々と街を回ってみようか。

 そう思いベッドから立ち上がると視野が高い。

 おぉ?慣れない視野角でフラついてテーブルの角に足を打ってしまった。

 まぁ組み立ての奴だし痛くはなかった。


 そう言えば自分の顔を見るのも数十年ぶりだ。

 もう元の顔では無い今の顔はどんな感じ何だろう。ウッキウキで洗面所を探す。


「なんてことだ……」


 僕の声は震えていた。その声すらも脳の刺激を増幅させる。

 洗面所で見た僕の顔は前の顔と比較にならないくらい美形であった。

 黒髪の前髪少し長め、メガネをかけているがオタクっぽくなくむしろ知的に見える。あいつの陰キャの定義が広すぎるだろ。


 背も視界が高い事から前の身長が168でギリギリ人権に満たなかったがこれは確実に人権に入るラインだろうと喜びが生まれた。

 勝ち組という単語が頭に浮かぶ。


 とりあえず満足して洗面所を出る。

 そして入学案内に目を落とす。


 中身は入学式の日程案内と当日まで用意する物と……んっ?

 多分適当にパラパラ見ていたら見落としてしまってたかもしれないあいつからの


『転生した君へ、君は無事グラフティデイズ3の世界に転生しました。君の要望通り主人公じゃなくて別人体を生成して諸々の手続きと専用の部屋までサービスしといたよ、それじゃ頑張って』


 主人公以外にしてくれって言ったっけ?記憶読まれたから多分そこら辺読まれたのか。というか別人体って言うのが気になる……もしかして……人造人間!?いや神造人間ってこと?それ普通の人間だな。

 ってかそれならどうやって身分証明取るんだよ。

 この世界、前の世界より技術レベル上でそこらにホログラムとかVRMMOとか普通にある世界なんだけど……マジで不法入国者としてどこかの国に飛ばされるんじゃないかな?

 なんか色々と不安になってくるがゲーム世界だからそこら辺は都合良くまとめられててほしい……


 そんな事を思いつつとりあえず資料をしまいまずは周辺の散策から始めて見ることにするか。


 ……あっ、あの資料にもチートスキルの使い方書いてないじゃないか……

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