第七章

第30話

仕事を終えて帰宅する。



自宅ではなく、海吏の家へ。



「やっと休みだな……」



「前回は休日なくなっちゃったしね」



仕事も佳境に入って、忙しさに拍車が掛かって来た為、休みがなくなる事もしばしば。



明日が休みという事で、海吏の家に来ているわけだけれど。



「風呂入るか?」



「自分の家なんだし、先に入って」



「じゃ、一緒に」



「ちょっ!?」



突然抱き上げられ、そのままバスルームに連行されてしまう。



こうなってしまっては、逃げられるわけもなく、大人しく服を脱ぎ始める。



「我ながらすげぇ痕……」



「どんだけ付けるのよ……」



「可愛い彼女が取られたら大変なんでね。マーキングだよ」



体中に散りばめられたキスマークを鏡で見ながら、苦笑している私を後ろから抱きしめて首筋にキスをする。



「見えるとこは、ダメっ……」



「分かってるって、大丈夫大丈夫」



こんなにも信用出来ない大丈夫を、私は生まれて初めて聞いた気がする。



「ちょっとっ……お風呂は……ぁっ……」



「ちょうどいい場所におっぱいがあれば、揉むでしょ、普通」



「んっ、それ、ゃ、あっ……」



片方はブラジャーをずらして突起を摘んでクリクリと転がされ、もう片方は着いたまま突起を爪でカリカリと引っ掻かれる。



体をビクビクと震わせ、ゾクゾクする感覚に脚から力が抜けていく。



そのままいきなり後ろから挿入されるけれど、私の体は既にもうすっかり受け入れる準備が整っていた。



「こんな簡単に俺のを飲み込んでっ……エロい体だなっ……はぁ……ンっ……」



「誰のっ、せいっ……あぁっ……」



そのまま何度も体を重ねて、お風呂でもベッドでも交わり、眠りに着けたのが朝方になってからだった。



翌日、気だるい体を起こすのが面倒で、ベッドの中で後ろから海吏に包まれながら、まったりとしていた時、ふとカレンダーが目に入る。



そして、違和感を覚える。



そういえば、忙しさですっかり忘れていたけれど、最近アレが来ていない気がする。



多少遅れた事は何度もあったけど、私の記憶が合っているなら、それ以上の期間来ていない。



まさかの考えが頭をよぎる。



幸せな気分を、不安が一瞬で塗りつぶしてしまう。



「瑞葵? どうした?」



後ろから声が掛かる。



無意識に前に回された海吏の腕を、強く握っていたようだ。



「え、あ、ううん、何もないよ……」



まだ決まったわけじゃないから、はっきりするまでは、何も言うわけにはいかない。



そうにしろ、そうじゃないにしろ、病院へ行って、ハッキリさせないといけない。



心臓がドキドキして、クラクラしてくる。



海吏の方へ向き、胸に顔を埋めるように強く抱きついた。



「どうした? 甘えん坊さんか?」



頭上でクスリと笑う海吏が、優しく頭を撫でてくれる度に、涙が出そうになるのを必死に堪えるしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る