第27話

大きなビルの前にタクシーが止まり、ビルへ入って受付に向かうと、受付前に見覚えのある女性が立っていた。



「鳴沢様、塩谷様、お久しぶりでございます。お待ちしておりました」



この人は、これから会う宝良さんの秘書さんだ。



「白木さん……あ、今は宝良さんでしたね。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」



私が言うと、秘書――白木雨音しらきあまねさんは「仕事では白木ですのでいいですよ」と可愛らしく笑う。



「相変わらずお綺麗で、宝良さんも大変だ」



「いえいえ、私なんて。塩谷さんには敵いません。鳴沢さんこそ大変でしょう」



私と海吏の関係を知っているのか、海吏のセクハラ発言をサラリとかわす辺り、さすがやり手秘書と言ったところだ。



格好いい。



白木さんは宝良さんの秘書であり、奥様でもある。



結婚してからも、秘書を続けているのだから、尊敬に値する。



案内され、エレベーターに乗ってそのまま白木さんについて行く。



エレベーターを降りると、社長室の前に直接繋がる。



白木さんがノックをすると、中から明るい声が帰ってきた。



中へ通され、海吏と並んで入る。



「よく来たね。いらっしゃい、君達に会いたかったよっ!」



素早く立ち上がり、私達の前に足早に歩いてきて、二人同時に大きな体に抱きしめられた。



宝良さんは外国に住んでいた名残りで、たまにこういう事がある。



社長である宝良翼たからたすくさんは、人懐っこい笑顔で心底嬉しそうにして、毎回私達を歓迎してくれる。



一連の挨拶を交わした後、世間話を交えながら仕事の話を進める。



やっぱり、話の分かる人との仕事は捗るもので、話はすんなり進む。



雅也さんのお陰でもあるけれど、宝良さんの力量がものを言っている気がした。



話が一段落し、資料をしまっていると、宝良さんが口を開く。



「せっかく来たんだ、一緒に食事でもどうだい? いい店があって、是非君達二人を連れて行きたいんだけど、お邪魔かな?」



海吏と顔を見合わせ、海吏が笑う。



同じ気持ちのようで、海吏が承諾の返事をする。



「ホテルの場所は雅也から聞いているから、夜に迎えを寄越すよ。それまで観光でもするといい」



一旦二人と別れ、会社を出た。



「じゃ、お言葉に甘えてデートしますか、お姫様?」



「あんたたまにそういう歯の浮くような事サラッと言うわよね……恥ずかしくないわけ?」



「別に。俺にとって、お前は可愛い大事なお姫様だからね」



まるで当たり前みたいに言ってのける海吏の言葉に、羞恥で顔が熱くなる。



「アラサーの女に言う言葉じゃないから」



「照れてんの? 可愛いな、俺の瑞葵ちゃんは」



肩を抱かれ、こめかみにキスをされた。



そのまま二人で観光という名のデートをする事になったのだった。



観光を終え、年甲斐もなくはしゃいでしまった私は、ホテルに戻って着替えようとした。



「宝良様からお届け物でございます」



二箱の荷物が届き、カードと共に服が入っていた。



ドレスとまではいかなくても、なかなか豪華な服だ。



「さすが宝良さんだな」



宝良さんもだけれど、見立ては多分白木さんだろう。私達の好みをよく分かっている。



カードには“海吏君の想いが通じたおめでたい記念日に”とあった。



海吏が言うさすがとは、こういう意味も含まれていたのか。

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