第六章

第26話

新幹線で散々弄ばれた私は、気を使った事も相まって、ヘトヘトになりながら新幹線を降りた。



「そんな怒んなって。気持ちよかったくせに。いってっ!」



「ほんと最悪っ! バカ、変態、鬼畜っ!」



海吏の肩を叩いて怒る私に、本人は楽しそうだ。



海吏のおかげで、車内で下着を替える羽目になった。



普段から泊まりの時は多めに入れるからよかったものの、毎回こんな事ではほんとに困る。



悪びれた様子なく謝る海吏に呆れながら、目的地であるホテルへ向かう途中に、腹ごしらえをする為遅めの昼食を取った。



食事をする度に、財布を出すのを許してくれず毎回ご馳走になってる気がする。



「ねぇ、たまには少しくらい出すけど……」



「女に出させるかよ。いや、違うな。お前には特に出させる気はない」



「だって食事する度に出してもらってたら、さすがに悪い……」



言うと、海吏が何故かニヤリと嫌な顔で笑う。



「な、何? あのさ……何かあんたがそうやって笑う時って、いい事があった試しがないんだけど……」



「気のせいだろ」



指を絡めて手を取られ、そのまま何事もなかったかのように歩き出した。



私は誤魔化された事にモヤモヤしながら、手を引かれたまま眉を顰めた。



ホテルに着いて、私はまた驚愕する事になる。



「ひと……部屋……?」



「はい。ご予約ではそうお聞きしておりますが……あの、何かありましたでしょうか?」



フロントの女性が少し困ったような顔をした。



「いや、大丈夫ですよ。彼女は聞いてなかっただけだから、気にしないで。照れてるんですよ」



「ちょ……海吏っ……」



まごつく私を他所に、スマートに対応する海吏。



完全に雅也さんの差し金だ。これはもしかしたら、私達二人が指名されたというのすら、本当なのかすらも疑わしくなってきた。



今更ごちゃごちゃ言っても仕方ない。



二人きりで過ごす事が初めてなわけでも無いし、大人しく部屋へ向かう事にした。



「そんなに一部屋に驚くとは思わなかったけどな」



「海吏は知ってたの?」



「いや、何となく予想? はしてたくらいだな」



何でそんな予想が出来るんだ。



スイートとまではいかないものの、なかなか豪華な部屋に通される。



部屋に入ってまた驚く。今日は驚かされてばかりだ。



「ベッドに……バラの花びら……」



テーブルにはカードがあり“素敵な記念日をお過ごし下さい”と書いてあった。



意味が分からない。一体なんの記念日なんだ。



海吏は笑いながら「あの人、気が利くじゃん」と雅也さんを褒めている。



もう私には抵抗する力が残っていなかった。



好きにしてくれ状態だ。



「とりあえず、先に仕事するか。お楽しみは夜に、な?」



「……変態オヤジ……」



「その変態オヤジが好きなのは、何処の誰だよ」



「っ……それはっ、んっ……」



あっという間に腰に手を回され、素早く引き寄せられて唇が重なった。



舌がスルリと入って来て、いやらしく口内をねっとりと滑る。



口の中まで性感帯にでもなったみたいで、力が抜ける。



「はぁ……えっろい顔……やっぱりちょっと発散させてからにするか?」



「バカっ……」



海吏の肩を叩くと、海吏は無邪気に笑った。

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