第三章

第14話

仕事も、段々忙しくなりつつある昼休み。



「とりあえずちょっと休憩にしようか」



雅也さんの言葉に、各々がバラバラに散る。



「瑞葵、飯行こーぜ」



「あ、うん」



「じゃ、俺も」



「あ、俺も御一緒しまーす」



海吏が私に声を掛けると、遼介と伊崎が私と同じように立ち上がる。



あからさまに不機嫌そうな顔になる海吏を気にする事なく、二人は示し合わせたみたいに両隣に立って私を挟んだ。



「独り占めはダメですよ、鳴沢先輩」



「そうそ。海吏は最近瑞葵を独り占めし過ぎ」



二人が私の腕に腕を絡ませ、歩き出すから、仕方なく歩き出す。



ギャーギャーと賑やかなランチを終えて、午後の仕事を何だかんだ和気あいあいと進めていく。



「これ、ちょっと無理やりじゃない?」



「でもここを省いちゃうと、説明不足になる気がしません?」



「じゃ、これはどうかな?」



女子社員と意見を交わす遼介と、それを真剣に聞いている伊崎。



「鳴沢先輩はどう思います?」



「そうだな。この部分を残しつつ、遼介のこれを……」



海吏もちゃんと仕事をしていて、少し安堵する。



私も海吏の隣に立って見守る。



「っ!?」



前言撤回。



海吏の長くて男らしいのに、しなやかな指が私の指に絡む。



皆には気づかれてはないけれど、いつバレるかヒヤヒヤしているのに、違うドキドキが別にある。



その感情に、自分でも戸惑ってしまう。



無理やり仕事に意識を戻して、夢中で仕事を終えた。



通常よりドッと疲れた気がする。



「お疲れ様」



「あぁ、遼介もお疲れ様」



癒される笑顔で立つ遼介を、座りながら見上げる。



定時で帰る者がいる中、チラホラとまだ残っている社員もいた。



「疲れた?」



「ちょっとね」



色んな意味で疲れたけれど、理由はさすがに言えないので、苦笑するしかない。



遼介の手が私の頬に触れ、親指が目元をなぞる。



「無理してない?」



「う、うん、大丈夫だよ、ありがとう」



前々から遼介はこういうスキンシップがよくあったけど、最近はより多くなっているような気がするのは、気のせいだろうか。



「先輩ーっ! 今日こそは飯行きましょ、飯っ!」



物凄い勢いで迫る伊崎が、距離を詰めてくる。



「伊崎は元気だね」



「そりゃ、先輩と飯行く為に、今日も頑張りましたからっ!」



満足そうに言う伊崎は、まるで子供みたいに無邪気だ。



「確かに、今日の伊崎はいつもよりやる気があったな」



遼介に褒められ、満更でもない様子で笑う伊崎が可愛い。



伊崎に癒されながら、頭をワシワシと撫でまくっていると、その手が掴まれた。



「お前、またそうやって甘やかしてんのかよ」



またしても、不機嫌な海吏がそこにいた。



「いくら伊崎が無害そうな顔してるからって、こいつも一応男なんだから、隙見せんなっつったろ」



「一応って何スか一応ってーっ!」



耳にタコが出来るくらい言われた言葉をまた言われ、苦笑する。



伊崎は頬を膨らませて、海吏に抗議している。



「とりあえず飯行こうか。もうほとんど人残ってないしさ」



遼介の言葉に周りを見回すと、先程までチラホラといた社員達はもうほとんどいなくて、私達だけだった。



四人でご飯を食べに行く事になり、私達は連れ立って会社を出た。



「俺、ずっと行きたかった店があるんですよっ!」



飛び跳ねるのではないかとでも思うくらい、はしゃいでいるように見える伊崎に笑いかける。



「ほんとに楽しみにしてたんだね。そんなに素敵なお店なの?」



「確かにそれもですけど、先輩と行くからこんなに楽しみなんじゃないスかっ!」



必死に訴えかけられ、その迫力に苦笑する。



楽しそうに鼻歌を歌う伊崎を先頭に、オシャレな店に着いた。



店に入ると、女性だけでも入りやすい雰囲気のお店だ。



「へー、伊崎のくせにいい店じゃん」



「くせにって何スか、失礼なっ!」



海吏と伊崎がじゃれ合う後ろで、遼介と顔を見合せ苦笑する。



「賑やかなご飯になりそうだね」



「確かに」



案内された席に着いて、各々が注文しお酒も少し。



伊崎がムードメーカーとしているからか、楽しい晩御飯になったような気がした。

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