第12話

目を逸らし、少し拗ねたような様子の鳴沢が、可愛く見えてしまった。



「ふふっ……」



「なっ、笑うなよっ!」



「ふふふ、ごめん。でも、そんなに私の事好きだったなんて、全然気づかなかった。まさか、最初からとか、言わないわよね?」



出会ってからなかなか長い付き合いなのに、全く気づかなかった。



どちらかと言えば、女として見られていないとすら思っていたのに。



「最初は、いい女って思って、仕事してみてすげぇなって感じて、お前と競い合うのが楽しくなって、もっと一緒にいて、お前の色んな顔見てみたいって思ったら、いつの間にか好きになってた」



まっすぐ見つめられ、顔に熱が集まる。



初めて、こんな熱い告白をされたような気がする。



私の胸に顔を埋め、小さく呟く。



「遼介にも、雅也さんにも、もちろん、他の誰にも、お前だけは渡せねぇ……」



甘えられているのか、つい笑いが込み上げ、誤魔化すように鳴沢の髪に指を絡ませた。



すると、ゆっくりと顔だけこちらを向いた。



「お前は……どうなんだよ……」



「私? うーん……どうかな。正直、まだよく分からない……。だって、そんな風に見られてるなんて、知らなかったし、私もそういう感じで見て来なかったし……」



「まぁ、そうだよなぁー……」



少し落ち込んだように眉を下げた鳴沢に、私は言葉を続けた。



「でも、こういう事するのは……嫌じゃ、ない……です……」



一瞬、目を開いて体をズラして顔がまた近づく。



「俺、セフレみたいに中途半端な関係で収める気はないし、全力で好きにさせるから、覚悟しといて」



「なるっ……んっ……」



鳴沢とのキスで分かる。



私が鳴沢に落ちる日は、そう遠くないという予感がする。



悔しいから、まだ言ってやらないけど。



「な、るさっ……」



「名前、呼んでよ……」



またそうやって、甘えたみたいな声で私を誘う。



答えない訳には、いかなくなるじゃないか。



「か、いり……」



「もう一回」



「は、恥かしぃ……」



「お願い、瑞葵」



甘え上手とは、こういうのを言うんだろうか。翻弄される、私も私だ。



これは、モテるわけだ。



「か、海吏……」



「あー、やべぇ……」



首元に顔を埋め、鳴沢が呻く。



「な、何?」



「今ので完全に勃ったわ……」



「たっ……!? ちょ、へ、変な事言わないでよっ……」



心配した私が馬鹿だった。



何かあったのかと思えば、突然そんな事をダイレクトに言われるとは思わなかった。



「もう俺、お前でしか勃たねぇ気がするわ」



「もうっ、やめてってばっ!」



恥ずかしい。何でこんなに当たり前みたいに、平然と言ってのけるんだろうか、この男は。



私が一人羞恥にもがいている間に、素早く服を脱がしにかかっていて、抵抗する間もなく下着だけにされる。



「……あんたほんと慣れてるわよね、こういうの……」



「それは否定しないな。まぁ、大人になれば色々ありますよ、そりゃ」



「あんたの場合は、そういうのがあり過ぎなんじゃないの? ちょ、んっ……」



首筋に唇が触れ、耳に唇が上がってきて口付けられる。



「あんたじゃなくて、海吏。これからは、そう呼ばないなら、返事しねぇから」



何でそんなに名前にこだわるのか、意味が分からないまま、キスを受け入れる。



自分の気持ちが分からないまま、体を重ねる事はいい事じゃないのは、重々承知している。



なのに、抵抗する気にはなれなくて。



自分がこんなに軽い女だったとは、知らなかった。



でも、今はこの男に流されてしまうのも、悪くないと思ってしまったのは、紛れもない事実で。



その後は、自分が想像を遥かに超えるくらいには、甘く抱き潰されたのだった。

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