第9話
横から伸びて来た手に、遼介の腕が振り払われ、私の目が大きな手で覆われ、そのまま胸に顔を埋める形になる。
声と香りで、誰だかは察しがついた。
「海吏には関係ないだろ」
「それはこっちのセリフだな。それこそ、お前には俺とこいつの間に何があったかなんて、関係ないだろ。こいつの彼氏でも旦那でもない、ただの同僚のお前には」
「それは、お前が彼氏だとでも言いたいのか?」
男二人に挟まれて、私は二人の顔すら見られないまま、ただ抱きしめられている。
涙はとっくに止まっていて、震えもすっかり治まっていた。
目から手が離され、その手が肩に持っていかれた。まだ離してはもらえないようだ。
「はいはい、ストップ。二人共そこまで」
手を叩いて、現れたのは雅也さんだった。
「会議に来ないと思ったら、仕事ほったらかして、まったく何をやってるのかな君達は」
すっかり忘れていたけれど、今日の会議は雅也さんもいたんだった。
「会議に企画の中心人物達がいないんじゃ、話にならないでしょ。君達らしくないねぇ」
肩から手が離れ、少し鳴沢から離れて雅也さんに向き直る。
「恋愛はせいぜいすればいい。だけどね、TPOは考えないといけないよ」
人差し指を立て、ウインクをする。
「さぁ、分かったら仕事仕事っ!」
自然な振る舞いで、私を鳴沢から引き剥がし、あっという間に私は雅也さんの腕の中にすっぽりと収まってしまう。
「ほら、行くぞ」
肩に回された手に力が入り、私は雅也さんと共に歩き出した。
正直、あの状況から連れ出してくれたのには、かなり感謝だ。
一体どうなってるんだろう。
今まで特に何もなく過ごして来たのに、突然何でこんな事に。
考えが纏まらなくて、その思考を消すかのように頭を振る。
「瑞葵、今日の夜は空けとけ、お兄さんが飲みに連れて行ってあげよう」
そう言って、雅也さんはウインクして見せた。
仕事でもプライベートでもそうだけど、雅也さんは本当に人の事をよく見ている。
私の事もよく見ててくれて、相談にだってたくさん乗ってもらって、今までこの人にどれだけ助けられただろう。
雅也さんには本当に頭が上がらない。
なのに、何故こんな素敵な人が独身のままなのか。
謎は深まるばかりだ。
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