第8話

鳴沢のスーツの肩口を掴んで、下から突き上げられながらしがみつく。



「ふっ、ん、ぅ、ぁ……っ……」



「声我慢っ、してんの? それはそれでエロいなっ……ん、はぁ……よっ!」



「ぁあっ……」



中に入ったまま抱き上げられて、また奥に鳴沢の昂りが当たる。



机に寝かされ、上の服のボタンも外されて、胸が露になる。



「これ以上逃げられちゃたまらないからな。お前から腰振ってねだるようになるまで、しっかり俺をお前の体に刻み付けるから……覚悟しろよ……」



「ゃ、鳴沢っ、やめっ……」



「馬鹿か、今更やめねぇよ。これはお仕置だからな。せいぜいデカい声が出ないように、頑張れ、よっ……」



両方の胸の突起を弄られながら、容赦なく突かれ続けて、私は必死に声を我慢しようと口に手を当てながら、もう片方で鳴沢の腕を掴む。



感じたら駄目なのに、気持ちよすぎて、頭がおかしくなりそうになる。



場所が場所なだけに、口から手を離す訳にはいかなくて、涙が出る。



「泣く程気持ちいい?」



涙を唇で拭い、口にあった手を優しく掴まれた。



「泣いてる顔にまでそそられるとか……俺も重症だな……」



頭が朦朧としているのに、手に口付ける鳴沢にドキドキさせられる。



目が合って、自然と唇が重なった。



甘くて、優しいキス。



舌がゆっくりと口内を犯していく。



「はぁ、んっ、ぁ、なるさっ……」



「海吏って、呼べよ……」



「か、ぃりっ、海吏っ……」



「ぅっ、ぁ、く、ぶねぇ……名前は、ヤバいな……イキかけたっ……」



前髪を撫で上げられ、額にキスをされる。



頭をふわふわさせながら、また突き上げられて、快楽に溺れていく。



声を抑える事すら忘れ、鳴沢の首に手を回して、自らも腰を振ってしまう。



「ぁあぁっ、あっ、ぅんっ、あっ……だめっ、ゃ、イ、ちゃっ……ンんっ……」



「ぅあ、はっ、くっ……みずっ……瑞葵っ、んっ……あっ……」



激しく打ち付けられる腰の、肉がぶつかる音がいっそう激しくなり、お互いの荒い息が部屋を支配した。



欲を放って何処かスッキリしたような顔で、鳴沢は私を見下ろしてまた笑う。



「もう、逃げんなよ? 次逃げたら……他の奴がいる前で犯してやる」



「おかっ!? わ、分かった、わよ……」



納得したような顔で「よし」といい、私の頭を撫でる。



この男ならやりかねないなと、その最悪が頭を掠めて身震いをした。



いつの間に根回ししたのか、自分の部署に出勤すると、何故か私は体調不良で少し休んでいたという設定になっていて、鳴沢を見ると軽くウインクされてしまった。



いいのやら悪いのやら、この男の底が知れないところが、少し怖くなった瞬間だった。



席に着くと、隣の席に座る可愛い後輩、伊崎いさきがこちらを心配そうに見ている。



垂れた耳が見えるようだ。



「体調、もう大丈夫なんですか?」



「あ、うん。少し横になったらもうすっかりよくなったわ。心配してくれて、ありがとう。伊崎は本当にいい子だね」



ほんとに彼は可愛い奴だ。



こんな弟がいたら、溺愛してしまう。



そんな事を思いながら、私はいつも通り彼の頭を撫でる。



頭を撫でるだけで、こんなにも嬉しそうに笑ってくれるんだから、ついつい甘やかしてしまうのは仕方ない。



しかし、その手は優しく離された。



「ほら、瑞葵、会議だよ」



優しく笑う遼介が私の手を持ったまま、私達を見下ろしている。



「さぁ、伊崎も遊んでないで、仕事しようか」



「は、はいっ! すみませんっ!」



たまに伊崎が遼介に対して、怯えたような態度をする事がある。



先輩だし、威圧感は多少あるかもしれないけど、そういうのとは違う気がする。



二人で並んで歩きながら、遼介を見上げる。



「あのさ、遼介。伊崎をあんまり威圧しちゃ駄目よ。怯えちゃって、可哀想に」



「そんなつもりはないけど、瑞葵もあんまり甘やかしちゃ駄目だよ。いくら懐いてて可愛い後輩でも、彼もちゃんとした男なんだから」



「男なのは分かってるけ……」



「そういう意味じゃないよ。隙を見せるなって言ってんの。襲われてからじゃ、遅いんだよ。それでなくても、瑞葵は存在してるだけでエロいんだから」



もっと他に言い方はないのか。



鳴沢といい遼介といい。二人してエロいを連呼しないで欲しい。



「どんなに可愛い奴でも、男はみんな狼なんだよ」



「……それを言ったら、遼介もじゃない。無害そうな顔して」



遼介が突然足を止めて、こちらを向き迫ってくる。



壁に追い詰められ、遼介が壁に腕をついて私を見下ろした。



最近こんなのばっかりだ。



鳴沢より少しだけ体が大きい分、多少威圧感が増す。そして、やっぱり近い。



「そうだよ。俺にも警戒しないと、瑞葵なんて簡単に食べちゃうよ?」



手を取り、指を軽く齧られる。



「ちょっ、遼介っ、からかうのはやめ……」



「本気で警告してるんだよ。まぁ、あんまり警戒されるのも、隙を付いて今までみたいに瑞葵に触れなくなるから、ちょっと困るんだけどね」



無邪気に笑ってるけど、言っている事が危ない気もする。



「鳴沢もあんたも……一体何なのよっ……」



「海吏? 何でここで海吏が出て来んの?」



遼介の顔色が変わる。真剣で、少し怖い。



「まさか、海吏に何かされたの?」



言われ、思考が鳴沢とのあの時間を巡らせて、顔に熱が集まる。



「ちょっと、何て顔すんの……」



「み、見ないでよっ……」



絶対今、私変な顔してる。



遼介の視線から逃れるように、書類を持った腕に力を入れて、顔を埋める。



でも、遼介の大きな手がそれを許さず、指で顎を持たれて顔を上げさせられた。



「海吏の事考えながら、そんないやらしい女の顔して……気に入らないな……。何でよりによって海吏なの? 好きなの? 海吏の事」



質問責めにされるのに、どう答えていいか分からない。



「遼介……」



「答えられない? なのに海吏の事で、そんな男を誘うような顔すんの?」



「も、離しっ……」



「答えろよ……海吏と、何があったか……」



こんな遼介を見た事がなくて、怖くて、体が震える。



「遼、介っ……怖っ……」



普段の優しく柔らかい印象が全くなくて、私の知らない人みたいで、怖さで涙が滲む。



「お前、何してんだよ」

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