第2話

会議の後、新しいプロジェクトのチームに入る事になり、もちろんそこにはあの男もいるわけで。



「鳴沢さん、御一緒出来て嬉しいですっ!」



「鳴沢さんっ! 色々教えて下さいねっ!」



女性陣が群がっている。


それをジト目で見ながら、ため息を吐いた。



「ため息が重たいね」



隣から声がし、見ると苦笑しながら私を見下ろす男が一人。



彼――戌井遼介いぬいりょうすけは同僚であり、男性社員の中で私が鳴沢と同じくらいには話をする男だ。



彼も高身長なイケメンで、人当たりもよく、鳴沢とは違って爽やかな好青年だから、もちろんモテる。



「で? 何をそんなに難しい顔して……って、あぁ、あれか。海吏は相変わらずだな」



「他所でやれっての」



「ヤキモチ……なわけ、ないか」



「当たり前でしょ。でも、遼介はいつも楽しそうね……」



「ははは、まぁね。瑞葵と仕事出来るのが、嬉しいよ俺は」



隣に座って頬杖をつきながら、体ごとこちらを向けて爽やかに笑う。



この笑顔にどれだけの女が悩殺されたんだろうか。



そしてこの男も距離が近い。



「それはどうも。頼りにしてるわよ」



そしてこれもいつも通り、軽くあしらう。



「二人で見つめ合って、何の話?」



女子社員に囲まれていたはずの鳴沢が、椅子の背に手をついて、私達の間に体を滑り込ませた。



やっぱり近い。



「特に何も話してないわよ」



「えー……俺だけ仲間外れかよー……海吏君寂しい……」



「キモ……」



「酷っ……」



私達のやり取りを、苦笑しながら遼介が見ている。



私達三人は、いつもこんな感じだ。



言い合いする私と鳴沢を、苦笑しながら見守る遼介。これが私達の日常。



最初はこれをよく思わない女子社員は多かったけれど、今ではだいぶマシになった。



その理由は、鳴沢にあった。



彼は仕事をする上で、女だからと私に遠慮する事も、特別扱いする事もなく、対等にぶつかって来てくれるから、私もそれにまっすぐ応えるようにしている。



そのお陰か、いい仕事も出来ているし、認められるようにもなった。



感謝はしているけれど、それでも仕事以外ではやっぱり苦手だ。



私はここに仕事をしに来ているわけで、相手を探しに来ているわけではない。



せっかく新企画のメンバーに選ばれたんだし、頑張らないと。



「やぁやぁ、諸君。今日も楽しくお仕事してるかな?」



無駄に明るい声がし、そちらに視線を向けると、顎に少し無精髭を生やして、高級なスーツに身を包んだガタイのいい長身な、年配の男性が現れる。



無精髭がこんなにも上品に見える人もなかなか珍しい。



明るく爽やかに笑うその人は、私達の上司で、名前は日尾野雅也ひびのまさや



アラフォー手間とは思えない若さがあり、余裕で包容力もあり、年相応の色気もある為、女子社員にもちろん人気だった。



この人は、私の憧れで尊敬する上司。そして、大学時代の先輩にも当たるので、何気に一番付き合いが長かったりする。



「今日は私が奢るから、皆でご飯でもどうかな?」



雅也さんの一言に、皆が活気に溢れた雰囲気で騒ぎ出した。



和気あいあいとしたこの会社が、私は大好きだ。



雅也さんと目が合う。



「頑張ってるみたいだな」



「はい、勿論。雅也さんを失望させたくないので、期待に応えたいですし」



私がそう答えると、雅也さんは優しい顔で微笑んで頭をポンと撫でてくる。



「俺は頼もしい部下を持ったもんだな、お前には期待してるよ」



昔から雅也さんはこうやって私を甘やかす。



仕事では甘やかされた記憶はないのに、こういう時だけは兄のように優しい。



雅也さんがいなくなると、後ろから二人分のため息が漏れる。



「ほんと、あの人お前にだけはああだよな」



「だね。一人称が俺に変わるのも瑞葵にだけだし」



「私にだけってわけじゃないでしょ。まぁ、妹みたいなもんじゃないの?」



そう言うと、二人は全く納得してない様子で「どうだかな」と声を揃えた。



こういう時だけ合わせてくるんだから。



そんなわけで、急遽飲み会が行われる事になった。

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