純愛(?)な溺愛

柚美。

プロローグ

第1話

会社に向かう途中で、私――塩谷瑞葵しおやみずきが、必ず通る道がある。



「おはよ。今日も可愛いね」



「みゃぁー」



高台の坂道に、必ずいる猫に挨拶するのが日課だ。



懐いてくれている猫を撫でながら、その可愛さに癒される。



「行ってきます」



猫に別れを告げて立ち上がり、歩き出す。



会社近くまで来ると、見覚えのある男が視界に入る。



いつものように、女子社員に囲まれていて、ヘラヘラと顔に嘘くさい笑顔を貼り付けている。



私はこのチャラい男が苦手だ。



特に、俺はモテるオーラを出しているのも気に入らない。



そりゃ、背が高くてイケメンで仕事も出来て優しくて、器用で女の扱いも上手く、それなりに経験もあるだろう、大人の余裕を醸し出しているんだから、モテない方がおかしい。



しかし、何故か私にはそれとは別の顔を見せる。



「よぉ。今日も朝からピリついた顔してんじゃん。眉間の皺すげぇな」



「何が悲しくて、朝一からあんたのヘラついた顔を見なきゃならないのよ。ほんと、迷惑だわ」



エレベーターを待っている私の隣に並んで、その男――鳴沢海吏なるさわかいりがニヤリと笑う。



「せっかくの美人が台無しだぜ? もうちょい愛想良くしたらどうよ。お前、顔だけはいいんだからさ」



本当に、どこまでも嫌味で一言余計な男だ。



この男に夢を持った子達に、本性を見せてやりたい。



ガキと言うか何と言うか。



まぁ、それに反応する私も人の事言えないのだけど。



朝のエレベーターは混む。



避けて乗ろうとするなら、物凄く早く来ないといけないから、仕方なくみんな混むエレベーターに乗るのだ。



しかも、今日は特に混んでいる。



いつもなら、離れて乗っているのに、今日はやたら近くに鳴沢がいる。



途中の階でまた人が増えた。



先程より更に近くなる。



物凄く、近い。



「つか、今日混み過ぎじゃね?」



「確かに……って、何っ……近いっ……」



狭いのにも関わらず、鳴沢は顔をやたら近づけて来る。



私は出来るだけ体を離そうと体を引く。



「お前、何か付けてる? 香水とか」



「付けないわよ。私香水とか、匂いのするもの苦手だから……てか、近いっ!」



鼻をひくつかせて、首元の匂いを嗅ぐ。私は答えながら、鳴沢の体を押す。



「混んでんだから、我慢しろ」



手首を掴まれ、向かい合いって距離を縮めたまま、エレベーターは目的の階に到着した。



私は掴まれていた手を振りほどき、先にエレベーターを降りた。



足早にオフィスに入り、自分の席に着く。



普段から掴み所もないし、やたらガキみたいな事で絡んでくるし。



ほんとに、意味がわからない奴だ。



私は鳴沢の事を考えるのをやめて、仕事に取り掛かった。

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