第30話

伴雷は、宅配ボックスに入っている荷物を受け取りに行った。ダンボールを取り出すと上機嫌で部屋に戻る。アオは洗濯と掃除を終えて、炊飯器のスイッチを入れたところだった。使う予定はなかったが、買っておいた黒いエプロンを着たアオが振り返る。


「じゃーーん」


 ダンボールを見せると、アオはこちらへ歩いて来て「なに」と言った。


「アオさん見てほらこれ」


 包装を剥がすと、中には、テレビゲームとコントローラー、ソフトが何本か入っていた。アオがこういうものに触れて来なかったことは知っている。興味があるかはわからなかったが、知らないもの、未知のものを無碍にするような女の子でないことはわかっている。


「ゲームやろ」

「……やったことない」

「よしよし、じゃあおにーさんが教えてあげるからちょっと待ってて」


 テレビに接続する間、アオはダンボールやら緩衝材やらを片付けていた。それでも時間が余ったので、お茶をいれている。ようやく遊べる状態にすると、舞が持って来たお菓子もテーブルに置かれていた。ゲームをやったことはなくても、こんな陣形にするもの、であることは知っているらしい。


「じゃあこれから順番に」


 レースゲームと、アクションゲーム、格闘ゲームを用意したが、伴雷の予想通りアオは格闘ゲームが気に入ったようだった。しばらくは伴雷が相手になっていたが、その内、伴雷にアオの相手がつとまらなくなり、アオは一人でオンライン対戦をはじめてしまった。


「もーーアオさん、体力あるんだから」

「これ面白いよ。アルバイト代で私も買おうかな」


 アオと伴雷の二人だけの生活は平和そのものだった。アオは伴雷の生活力の無さを笑うでもなく「なるほど」と納得して、伴雷が気にしないとなると好き勝手に家事をしていた。目を合わせて見つめ合うことと手に触れることはあるが、それ以上のことはない。アオはやはり迷っているようで、どうしたらいいかずっと考えている風だった。好きなように迷えばいい、と伴雷は思う。アオから求められない限り、これ以上のことをするつもりはない。うっかり触れてしまうことはあるが、不意打ちだと彼女はとんでもなく驚くし、やり返されると自分は十倍驚くことになる。奇声をあげること度々である。

 アオがやったことがないと思われることで、今できることを片っ端から提案していた。ピザとジュースを飲みながら映画を観たり、今日はきっと、夜を徹してゲームをすることになりそうだ。アオは練習用のモードで黙々と習得したい動きを練習している。


「よし、じゃあ俺はマネージャーになろっかな」


 インターネットで上手い人間のプレイ動画なんかを見たら、きっと彼女はぐんぐん伸びていくに違いない。海原アオは、そういう、努力の得意な女の子だ。楽しそうにしている横顔をこっそり写真に撮ってみるが、舞にようにはうまく撮れなかった。

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