第25話

きっといいところに住んでいるだろう、と思ったが、案の定いいところに住んでいた。最近できたばかりの綺麗なマンションの最上階の部屋だ。学校や駅の場所がしっかり分かる。この辺りでいちばん新しい建物なので、まだ町に馴染まずちょっと浮いているが、そんなところを選ぶのもまた伴雷らしい。

 ショールームみたいだ、とアオは思った。何かを参考にして作り上げた。理想の部屋。そんな印象を受ける。

 どうしていたらいいのかわからずリビングをきょろきょろと見回す。


「まあ、アオさんに誘拐ですって証言されたら終わるけど」

「家出ですって言うよ」


 アオは笑って振り返る。伴雷は「うっ」と胸を押えて壁の方を向く。「なに?」「いや、アオさんがいるなと思って」連れてきたのは自分のくせに、何を言っているのやら。


「入っちゃいけない部屋ある?」

「ないよ」

「見られたらまずいものは?」

「基本的にはそういうのは全部パソコンに取り込んでるから大丈夫。アオさんの日報に至っては暗記してるから」

「私よりも、私のことに詳しそうだね」

「そうなれたらいいけど。えーっとまずは、何がどこにあるか教えておけば困らないかな。それとも何か食べ――あ」


 伴雷がなにかに気づいたような声を出す。照れくさそうに笑っていた。


「俺、誰かが家に遊びに来んのはじめてだわ」

「こんな立派なところなのに」

「ね。――よし、じゃあ浴室から」


 どうぞ、と案内されるままについていく。

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