第24話

窓を開けて、そのまま喋る。家の高さがあるのでアオのほうがやや背が高い。立っている伴雷を少し見下ろす形になる。

 一体どこから情報を仕入れてきたのやら、と思うが、善助はかなり大声で叫んでいた。店の外まで聞こえていたとしたら、彼に情報が入ってもおかしくはないのかもしれなかった。


「……今見つかったら、すっごい怒られるよ」

「大丈夫大丈夫。慣れたし」

「慣れた?」

「うん、俺はほら、自分の親とか、知り合いに怒られることってなかったけど、今はよく店長やおばあちゃんに怒られっから」


 それならば、アオも慣れてしまっていたのだろう。五歳の時まで怒られることなどなかったし、説教されることもなかった。ここ十年で随分慣れて、言い返すようにまでなった。いいことなのか悪いことなのか、アオにはわからない。しかし経験から、怒られるというのは気分の良いものではないと知っている。


「ごめんね」

「いやいや、貴重な経験だった」


 祖母はリビングで善助と話をしているはずだが、一応外を警戒する。善助が家に来ると言う展開もなくはない。アオは一通りの確認を終えると、改めて伴雷を見る。


「勝手なことばっかり言ってるのに、また来てくれたんだね」

「ええ? いやあ。どうかなあ。勝手してるのは俺のほうだったりして」

「そうかな」

「そりゃあまあ、だってこの関係、俺がやめたら終わっちゃうじゃん」

「そうだね」

「それは困るっつーか。生きていけるかわからねえっつーか」

「うん」


 アオは頷いた。


「――それも、そうだね」


 伴雷は照れたように笑った後に、わざと軽い調子で言う。


「俺がこんなだから二人とも不安なんだろうなあ。フツーに会社員とかなら認めてもらえっかな。今より稼げなくな、あ、いや、副業でやりゃいいのかね。どう思う? もし年の差とかだったらそれは、ちょっと、埋めようがないけど」

「伴雷くんが相手だから駄目、みたいなことを二人は言うけど、私はどんな相手でも駄目なんじゃないかと思う」


 相手が伴雷でなくとも、二人は心配するのだろし、アオもまた同じように悩むのだろう。伴雷に会って居なかったとしても、いつかはぶつからなければならなかった問題のように思う。


「伴雷くんは、こういう話はよく聞く?」

「うーん。わかってても止められないとか、忠告がうぜーとかって話は、まあなくはないけど。根本的にほら、違うじゃん? 俺がその辺の誰かから聞く話は俺に関係ないけど、今してる話はその、ね」


 伴雷はぱちりとウインクをした。


「俺たちの話なわけだ」


 俺たち。私たち。伴雷の言葉を反復する。


「伴雷くんは、どうするのがいいと思う?」

「んー、俺はね」


 伴雷は前置きをする。「もしも、これはちょっとさっきから、っつーか昨日から夢かなーって思っていることなんだけどもし、アオさんが俺のことを特別に想ってくれてるとしたら、アオさんが俺みたいな男を好きになってくれてんだとしたら、いや、間違ってたら申し訳なさすぎるから違ったら殴ってくれていいんだけど、もしもそうなんだとしたら」恐々とアオを見る。アオは目が合うと頷いた。伴雷はほっと胸に手を当てて、それから一本指を立てる。


「実は俺は、あいつらは心配しすぎだと思ってんだわ」

「どうだろう。当然、という気もするけど」

「いいや。舞ちゃんはともかく、あいつらはアオさんを舐めてるね。俺はいっつもそこが許せない」


 どういうこと、と言いかけて。伴雷の真剣な目に射貫かれてどきりとする。


「おいで、アオさん。俺たちで証明してやろう」


 海原アオは、合田伴雷の手を掴んで、窓を乗り越え外に出た。

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