第37話

私は本が好きだから、本屋のバイトをする事にした。



最初は琉玖夜がバイトなんかしなくていいと言われたけれど、私が食い下がると、近所ならと渋々許可をくれた。



よく行く本屋さんに面接へ行き、来週から働く事になった。



琉玖夜の負担にはなりたくないから。



守られてばかりだから、隣に並んでも、堂々と歩いて行けるように。



夕食を作る為、キッチンに立つ。



食材を切り始めて数分、鍵の開く音がして琉玖夜が帰って来る。



「おかえりなさい」



「…………」



私を見たまま、琉玖夜が固まっている。



何か変な事でも言ったかと不思議に思っていると、無言で近づいてきて抱きすくめられる。



「ど、どうしたの?」



「何か、帰ってきて美遥がいるって、いいなって……」



「ふふ、何それ」



額をくっ付けて、スリスリされる。くすぐったくて、身をよじる。



「ただいま」



「お疲れ様」



が、それだけで終わらないのが、この男である。



腰にあった手が、スルリといやらしい手つきで、お尻の方へと下がってくる。



「ちょっ、りくっ……んっ……」



「何だ?」



顔中にキスが降る中、必死に抵抗する。



「もぉ……琉玖夜っ、ご飯っ、作れなぃ、でしょっ……」



「んなの、後でいいだろ」



これはマズイ。



今後、こんなので身が持つのだろうか。



「あ、そうだ。ちょっと待ってな」



触れるだけのキスをし、突然カバンを漁り始める。



「こっち来て」



ソファーの前に立たされる。



琉玖夜が小さな箱を取り出し、膝まづいた。



「俺には、これからも一生お前しか考えられないし、お前の隣にいるのは俺がいい。まだガキだから、頼りないかもしれないけど、この先も、俺の隣にいて欲しい。ずっと」



まるでドラマみたいな状況に、思考が停止して、固まってしまう。



「……琉玖夜が膝まづくとか……どこで覚えたの?」



「……何かのドラマ?」



色々な事が起きていて、少しパニックになってるけれど、とりあえずは返事をしないといけない。



返事なんて、決まっているのに、強引なくせに、琉玖夜は変に律儀な所もある。



「こちらこそ、よろしくお願いします」



そう言って、琉玖夜と目線を合わせるように座る。



「さすがに婚約指輪みたいなもんは、まだ気が早いと思って、とりあえずはペアリングにした」



シンプルなデザインの指輪が二つ並んでいる。



お互いに指輪をはめ合う。



また初めての事が増えて、指輪がハマった指を見てニヤけてしまう。



「そんなに嬉しいか?」



「うん。何か、初めてがいっぱい」



「まぁ、喜んでもらえたなら、よかったわ」



余裕そうなわりに、琉玖夜も何処か嬉しそうに優しく笑った。

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