第30話

静かな病院に響く、複数の足音。



そちらに顔を向けると、見覚えのある顔ぶれが揃ってこちらに近寄ってくる。



「美遥っ!」



「お姉ちゃん……」



姉の姿を見つけ、また鼻の奥がツンとなる。



沈黙が包み、またも静寂が現れる。



隣に座る姉が手を握っていてくれて、気丈にしているそんな姉の手も、少し震えているように感じた。



どのくらい経ったかは分からないけれど、手術室の扉が開いた。



医者であろう男性が現れ、私と姉を見る。



「結構な量の薬を飲んでいたのと、少し時間が経ってたのもあって完全にとは言わないが、とりあえずは安心していいだろう」



医者に礼を言い、少し安心してか、私と同じように姉も椅子にへたり込むように座る。



「よかった……」



「ほんと……毎回問題ばっかり起こすんだから、うちの親は……全く……」



悪態を吐きながらも、姉は少し目をうるませていた。



手続きを済ませ、今は特に出来る事はないので、とりあえずは解散となった。



そこまで遠くない距離を歩きながら、琉玖夜が握ってくれてる優しい手を、強く握り返す。



「大丈夫か?」



「うん。色々ありがとう」



これ以上心配ばかりかけていられないと思い、私はできるだけ自然に笑おうとする。



「無理すんな。強がる必要なんてない」



言われ、気づいたら涙が頬を伝う。



大好きとまでは言えないにしろ、それでも母は私には大切な家族で、大事にならなくて安心したせいか、涙は止まらなくて。



泣きじゃくる私の涙を拭うかのように、目に琉玖夜の唇が触れる。



安堵と緊張の糸が途切れ、私は子供のように琉玖夜の胸で泣いた。



そして、私は次の日、自宅へと戻った。



驚いた事に、姉も同じ事を考えていたようで、私が帰る頃には、家に明かりがついていた。



「なんだかんだ言っても、やっぱ我が家は落ち着くって、ね」



複雑そうに苦笑しながら、姉が言った。



久しぶりに自分の家で過ごす夜。姉と二人、まだ仲がよかった頃の話をしたり、恋バナをしたり、普通に過ごす。



そして、自分が思っているより疲れていたようで、二人寄り添いながら、その日は眠りについた。



少しでも今までの時間を修復するかのように。

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