第24話

ついに来てしまった。



お菓子やジュースなどを持ち寄り、まるでパーティーかのような状況。



しかし、これから行われる事は、そんな可愛いものではない。



まるでお気に入りの映画を見るかのように、楽しそうにDVDを入れる岸宮玲。



お菓子やジュースの準備をする姉と山勢春樹。



興味なさそうに、ベッドに凭れてスマホをいじっている赤原勇樹。



私からすれば、異様な光景。



みんな慣れているんだと分かる。私が見た事がないと告げた時の反応が、納得しながらもみんなが驚いていたから。



こういう事も慣れているんだろう。



若者の性が乱れている。私も若者だけれど、理解が追いつかない。



そんな事を思っていると、始まったようで、何個かのDVDの中の一つ、まるでドラマでも見ているかのように、女優さんと男優さんの会話から始まった。



「あんた向けに、なるべくソフトなのを頼んだから、徐々に慣れていけば?」



そう姉が言った。



今日琉玖夜は学校から直接バイトに行っているから、すぐには帰ってこないし、一応家にみんなが集まる事は報告している。



鑑賞会をするとは、さすがに言えなかった。



帰ってくるまでには終わってくれるだろうと。



しかし、状況は変わるもので。



「っ!?」



画面の中で、二人の行為がどんどんエスカレートする。



キスから始まり、ゆっくり進む熱を帯びる行為に、目が離せない。



綺麗な女優さんが、甘い声を出し、私は少しびっくりする。



ちょっと待って。こんな声がみんな出るのか。私も、出したりするのか。



そんな事を思っていると、顔が熱くなり、恥ずかしさが物凄く膨れ上がる。



「この女優めっちゃいい声で啼くんだよねぇ。俺この女優の声好きなんだ」



「俺はもうちょい可愛い子がいいかなぁ〜」



激しくなっていく行為を見ながら、こんな当たり前みたいに会話をする人達がいるのか。



やっぱり私には理解出来ない。



「っ!?」



男優さんが、女優さんの足を広げて、そこへ顔を埋めた瞬間、私は目が飛び出たのではないかと思うくらい、目を見開いた。



こ、こ、これ、は……



舐めている。排出する場所を。



舐めるなんて可愛いものじゃない。これは、大変な事が起きている。



自分がされているわけじゃないのに、凄く気持ちよさそうに喘ぐ女優さんを見ていると、恥ずかしすぎて、少し涙が滲んでくる。



キャパオーバーだ。私には、ハードルが高すぎる。



しかも、女優さんが男優さんの男性器を舐め、咥え始めたのだから、卒倒するかと思った。



顔に全ての熱が集まっているかのような感覚。



呼吸が止まりそうになる。



何が起こっているのか、分からない。



頭がパニックな私を放置し、行為は進む。



男優さんのモノが、挿入されて行く。



生々しくて、怖くなってきて、見ていられなくなって、目を逸らそうとするのに、逸らせない。



やっぱり興味はないわけじゃない。こんな経験をするのかと思うと、凄く怖くて、震えて、泣きそうになるけれど、男女それぞれに性欲はあるわけで。



山勢春樹が言っていた事を思い出す。



好きな子がそばにいて、デキないのは拷問みたいなものだ、と。



いくら氷点下な琉玖夜といえど、健全な男の子で。



涙目になりながら、目のやり場に困っていると、耳に嫌な音が届く。



―――ガチャガチャ。



その場にいた全員が扉に目を向けた。



多分、焦って血の気が引いたのは、私だけをではないはずだ。



「えっ、ちょ、琉玖夜って、バイトだよなっ!? 早すぎじゃねっ!?」



「やばいっ、早く消せっ!」



バタバタしている間に、琉玖夜がすでに部屋へ入ってきていた。



『ああっ、ぁんっ……』



消す瞬間に聞こえた声。これは、完全に聞かれたであろう事態に、汗が流れる。



「何してんの? 隠せてねぇけど?」



「お、おかえり琉玖夜〜、えっと……これ、は〜……へへへ〜」



「はぁ……つかさ、何でこんな早いわけ? お前バイトだろ? まだ帰る時間じゃないでしょ?」



「そ、そうだよ、サボりかな〜?」



口々に話題を逸らそうと必死な男性陣。姉はDVDを取り出して閉まって隠す役割を、気配を消しながら頑張っている。



私は、涙目で動けないでいた。



店長の体調不良で早く終わったとだけ告げた彼の目は、私だけを捉える。



切れ長で鋭い、探るような目で私を見る。



目が、逸らせない。



誰もいないかのように、みんなを無視して私に近づいて来て、カバンを下ろす事すらせず、目を合わせるようにしゃがみ込んだ。



滲み始めていた涙が、零れそうになるのを指でなぞられる。



少なからず、DVDのおかげで興奮していたのか、体がビクリと反応する。



「泣くくらい、興奮した?」



静かな部屋に、低くて感情のない声が響く。



動けない私に、琉玖夜は振り返る事ずらせずに口を開く。



「出てけ」



「り、琉玖夜……そんな怒る事じゃ……」



「聞こえなかったか?」



私以外に向けられた言葉に、みんなが動く音がする。



琉玖夜から目を逸らす事が許されず、金縛りにあったかのように固まった体。



みんなが出ていった後、琉玖夜は立ち上がり、落ちていたDVDを拾い上げる。



一つだけ忘れられていたようで、体が冷えた。



それを見つめていた琉玖夜が、デッキへとセットする。



何をしているのか、なんて質問は出来るはずがなく、言葉を飲み込む。



再生された後、私を後ろから包むように座り、体が密着する感覚に、ビクリとする。



「目、逸らすなよ……見たかったんだろ?」



「ち、ちがっ……」



「お前が自分から見たいって言ったわけじゃねぇのくらい分かる。でも、夢中だったんだろ?」



制服のスカートから、冷たい手が入ってくる。



「ぁっ……」



「ここ、濡れてるけど? やらしいの見て、興奮したんだろ?」



下着の横から指を入れ、そこを撫でられ、ゾクゾクする。



「目逸らすなって、ちゃんと見ろ」



「ゃだっ……」



涙が滲む。恥ずかしくて、怖い。



「ごめん、なさっ……怒ら、ないでっ……こ、怖ぃ……」



「別に怒ってねぇよ。ただ、お前を濡らす最初の相手は、俺じゃねぇとおかしいだろうが」



何の話だろう。これはどういう感情なのか。



「お前の初めては、全部俺のだろ」



少し拗ねたような声で、首筋にキスをされ、肩に重みがくる。



小さく呟かれた声が、しっかり私の耳に届く。



「俺以外で、濡らしてんじゃねぇよ、淫乱」



失礼な事を言われたけれど、凄く可愛くて、愛おしい。



体ごと振り返って、彼の顔を見る。



「ぬ、濡れる、とかは、私の意思じゃ、ないし、生理現象、だし……でも……ごめんなさい……」



それだけ言って、自分からゆっくり触れるだけのキスをする。



それだけで恥ずかしいのに、私は今、その先へ行こうとしている。



自分でも大胆だと思う。けれど、目の前の男が愛おしくて仕方ない。



「琉玖夜……好き」



「っ……お前、ズルすぎるだろ……」



「うん、ごめんね。でも、好き」



そう言ってまたキスをする。



後頭部を持たれ、深くされる。



お互いの舌が絡み合ういやらしい音と、荒い吐息が耳を犯していく。



背後のテレビから、女優の喘ぐ声が聞こえ、琉玖夜とのキスから逃れて、胸に顔を埋める。



「テレビ……け、消して」



「何で?」



「何でって……」



「嘘。俺に集中してもらわないとだしな。ちゃんと消す」



テレビが消され、軽くちゅっとキスをされた。



「いい雰囲気壊すのも癪だけど、俺バイトで汗かいたしな。お前から先風呂いけよ。つか、この流れはヤる方向で、合ってんの?」



「っ!? い、言い方がなんか嫌だ……」



「ちゃんと聞かなきゃだろ。確実にお前の体に負担かかる事だからな。お前の事、大切にしたいし、すげぇ大事な事だろ。お前が嫌ならしねぇ。それに、ヤりだしたら俺、お前相手に止まってやれる自信ねぇし」



真剣に言う琉玖夜に、心臓が跳ねる。



大事にされてたんだ。そう感じて、温かくなる。



恥ずかしいとか、そんな感情はもう今はなくて、琉玖夜に抱きついた。



「怖いし、恥ずかしい、けど……でも、私の初めて、全部もらってくれますか?」



顔を見上げて、本心からそう言った。



やっぱり私は、この人じゃないと、駄目だ。



「そんな殺し文句、反則だろっ……」



ぎゅっとされて、耳に「大切にいただきます」と言われて、頭にキスが降った。

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