第23話

あの後、姉は山勢春樹の家にお世話になっている。



家に帰るのが一番なのだろうけど、今母と向き合うには、私達はまだ子供だった。



琉玖夜は事情を知って少し眉を顰めたけれど、私に害がないならと納得してくれた。



そんな中、私はまた困った事に巻き込まれていた。



「は? まだヤってないの?」



「お姉ちゃん……言い方……」



私は学食で姉と二人で昼食を取っていた。



私達姉妹が学校で揃っているのはほぼ初めてで、そんな初めて見る光景に、正直見世物みたいになっていたけれど、今の私にはそれより困った事があった。突然姉に言われた質問だった。



「おぉ〜、やっぱ美人姉妹が揃うとなかなかに絶景だねぇ〜」



「春樹、変な煽りやめてくんない? 今女子トーク中なんだから」



なかなか迷惑そうに、冷やかした山勢春樹に姉が言った。



結構仲良くしているようで、安心した。



姉が言う女子トークに、自然と入り込んだ山勢春樹は、姉と同じお弁当を広げて食べ始める。



「見て見て美遥ちゃん。君のお姉さんの初めて作った卵焼き」



「ちょっ、や、やめてよっ! あんまり上手く出来なかったんだからっ……悪かったわね、下手で。……どうせ、美遥みたいに、器用じゃないし……」



「何で? 初めてにしては、なかなか上手く出来てんじゃん、ねぇ?」



「うん、美味しそう」



お世辞ではなく、本気で褒めた私達に、姉は少し赤くなって「お世話になってるし、そのくらいしか、出来ないから」とそっぽを向いた。



最近山勢春樹に教えられたのは、姉がツンデレだと言う事だった。



何だかんだで楽しそうにな二人を見て、微笑ましくなった。



「で? 何の話?」



おかずを口に入れながら、そう問うた山勢春樹に、私はなかなか言い出せずいると、姉が口を開く。



「そういう雰囲気にはなるのに、なったらなったで、キスより先に進まないんだってさ」



女慣れしている琉玖夜とは違い、私は男を避けて生きてきたから、知識も経験も皆無に等しい。



全くの子供ってわけじゃないから、少しくらいなら知っているけれど、でも、実際経験するのとでは何もかもが違う。



「まぁ、元々琉玖夜は自分から女求めるタイプじゃないしね」



「へぇ、意外。アンタ等女癖悪いイメージしかないわ」



「俺と勇樹はそうだけど、琉玖夜はなんつーか、来る者は気分が乗ったら拒まないタイプかな。女にっていうか、人に興味ないから、気分乗らない時の琉玖夜は、誰に対しても氷点下だし、あんま自分からは女遊びしない奴だよ」



ややこしい。彼もなかなか拗らせている。



よかったねと笑って言われた。



よかった、のだろうか。確かに遊びまくられていても困るのだけど。



「でも、美遥ちゃん相手なら、すぐ飛びかかってそうなのに、大切にされてんのかな。本気になった琉玖夜を見た事ないから、俺にはアドバイス出来る事はないね。ごめんね」



「ていうか、あんたは、アイツとシたいの?」



唐突な質問に、お茶を吹きそうになった。



そんなの、分からない。シたいとか、そういう感情を持った事がないから。



だからといって、シたくないわけでもなくて。



「……わ、分からないよ……そんなの……」



おかずをつつきながら、俯いてしまう。



体を重ねるという事は、裸を見せるという事。



そんな恐ろしい事、私に出来るのか。いや、無理だ。恥ずかしすぎて死ぬ。



何でみんなそんな恐ろしい事を平気で、それも好きな人でもない人と、簡単にしてしまうのか。



理解に苦しむ。



「あんたの事だから、どうせ裸見せるの恥ずかしいーとか、つまんない事考えてんでしょ。くだらない」



「だ、だって、裸だよ? そんなの、恥ずかしいの、当たり前……」



「怖がらせるつもりないけど、見せるのは裸だけじゃないし、好きな子なら尚更、もっと奥まで見せる事になるだろうから、裸なんかで恥ずかしがってたら、身が持たないよ? 大丈夫大丈夫、もっと気楽に考えなよ」



もっと奥って、なんだ。



どこの話? は? 意味が、分からない。



「思考停止してるわ、これ。でも確かに、足開いて排出に使う部分見られたり、男のもん入れたりするんだから、そりゃ裸なんか気にしてる場合じゃないわね。アイツ、舐めたりすんのかな?」



「う〜ん、俺は舐めるの好きだけど、あの琉玖夜は……前戯してるの想像つかないなぁ。美遥ちゃんのなら、舐めるのんじゃない? 何か、美遥ちゃんに対しては、念入りにしそうって言うか、しつこそう」



男の人のをっていうのは、知識としてあるけれど、舐めるって何を?



駄目だ。二人の会話の難易度が高すぎる。



「よぉ、何の話?」



「楽しい話? 俺も聞きた〜い」



いやいやいや、また経験者が二人も増えた。



しかもここは学食だ。こんな場所で話す話ではない気がする。



現に、色んな視線を感じる、気がする。



「お前等さ、なんちゅー話をしてんだよ。場所考えろ、場所を」



勉強が出来ないわりに、一番常識があると言われている赤原勇樹が、呆れたように言った。



「じゃ、AV鑑賞でもしたらいいんじゃね? それが一番手っ取り早いでしょ。ほら、性教育ってやつ?」



何でこんな話が飛躍するのか。



私の意見はどうなるんだろう。勝手に話が進み、何故か琉玖夜の家で、AV鑑賞会が開催される事で話は纏まった。



AVが何かなんて、見た事はないけれど、もちろん知ってはいる。



家の主不在で、しかも私の意見など聞いてもらえるはずもなく、決まってしまった。



琉玖夜は、どう思うのだろうか。



なすがまま、私は不安な一日を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る