第14話
岸宮玲とのデートの日。
私はいつもより、更に地味にコーディネートをし、待ち合わせ場所に立つ。髪型は、三つ編みのお下げにするのを忘れない。
お洒落なんてする必要もない。
早く諦めてもらわなきゃ、私の平穏は訪れない。
全員このスタンスを貫いてやろう。
これで嫌われたら、それはそれで好都合だし。
スポーティーで、それでいてラフなのにお洒落な格好で現れた岸宮玲。
私を見る目が見開かれる。
ダサい。ええ、ダサくして来ましたとも。
なのに、何だろう。何でそんなに嬉しそうに笑うのか。
「おはよー、美遥ちゃん。今日も可愛いね。俺さ、美遥ちゃんのこの髪型の時が一番好きなんだよね。あ、知らなかった?」
そう言って、私の髪を手に取って少し大人びた顔で笑う。
「この隙を見せようとしない君を、ゆっくり暴いて隠してる部分を晒していくのが、すっごく楽しいし……めちゃくちゃ興奮する……」
髪にキスをして笑った顔は、いつもの無邪気な笑顔ではなく、彼が初めて見せる男の部分だったのだろうか。
「さっ、行こっかっ!」
手を繋ぐように掴まれて、優しく引っ張られる。
着いた場所は遊園地。
彼らしいと言えば彼らしい。
「何から乗る? 何が好き?」
楽しそうに聞いた彼に、私は少し困って閉まった。
「ん? どうしたの?」
「私、遊園地とか初めてだから、その、何がいいとか、分からない」
目の前ではしゃいでいた彼が、その大きな目をもっと大きくした。
当たり前だ。遊園地が初めてなんて、普通の家庭ならありえないだろうから。
「よし、じゃぁ、片っ端から乗ろっ! んで、いっぱい楽しんで、いっぱいいい思い出作って帰ろっ! 行こっ!」
凄く楽しそうに笑う人だ。
こっちまでつられそうになる。
ジェットコースターから始まり、お化け屋敷にコーヒーカップに急流滑り。
他にも色々な乗り物があって、目が回りそうになる。
そして、私は絶叫系がいける事を初めて知った。でも、お化け屋敷とコーヒーカップは少し苦手だ。
疲れてベンチに座る私に、冷たい飲み物を差し出して心配してくれる人。
わざわざ蓋まで開けてくれる。
「ちょっと、飛ばし過ぎちゃったかな……大丈夫? ごめんね。俺、君が笑ってくれるの嬉しくて、ついはしゃぎ過ぎちゃって」
苦笑した岸宮玲は、申し訳なさそうに謝る。
私は受け取ったミネラルウォーターを、何度か喉を鳴らして飲み込んだ。
「大丈夫。その……私も、楽しいから……」
「マジでっ!? よかったー。やっぱデートは、二人が楽しくないと、なっ!」
白い歯を見せて、二カッと笑う顔が凄く嬉しそうで、その可愛らしさに少しドキっとしてしまう。
昼食を取って、無理なく乗れる乗り物に乗ったり、見世物を見たり、初めての遊園地をたっぷり堪能した。
夕日が沈む頃、私は遊園地の最後は必ずこれと言われ、観覧車へ乗り込んだ。
初めて乗る観覧車から見る夕日が凄く綺麗で、うっとりしてしまう。
「綺麗……」
呟いた私の髪がほどかれ、驚いて犯人であろう男の方を見る。
いつの間にか隣に移動していた岸宮玲は、ゆっくり私の眼鏡を外して、真剣な顔をする。
「夕日より、美遥ちゃんのが綺麗……なんて、クサイよな」
少し照れたように苦笑し、また真面目な顔に戻り、じっと見つめられる。
妙な雰囲気に、私は顔を逸らすけれど、それを一足早く手の平で、優しく制止された。
「なぁ、俺じゃ駄目? 琉玖夜のが好き? 俺惚れっぽいし、長続きしねぇ事多いんだけど、美遥ちゃんの事はマジで好きなんだ。大事にするし、ずっと笑顔でいさせる自信あるし。アイツ等じゃなくて、俺を選んでよ」
そんな子犬みたいな目で見ないで欲しい。
こんな事で絆されてちゃ、身が持たない。
「好きだよ」
「まっ……んっ……」
唇が重なる。
雰囲気と、荒い吐息と、熱い舌の感触に飲まれ、流される。
角度を変えて、何度も繰り返されるキスに、頭が痺れて何も考えられない。
無邪気に笑って可愛らしく人懐っこい彼は、今男の部分を出して私を翻弄する。
「はぁ……やば……美遥ちゃんの唇……クセになんね……止まんない……ンっ……」
「もっ……ゃ……ふっ、ンんっ……」
離れた自分の唇をいやらしく舐め、またキスが返ってくる。体を押し返すのに、ビクともしない。
乗っている観覧車が下に着く手前で、唇が離された。
息が上がるのを隠すように、岸宮玲の腕にしがみついて降りる。
「ごめん、夢中になって、頭ぶっ飛んでた。でも、本気だから」
じっと見つめられ、心臓が波打つ。
真剣な告白されて、熱くなるキスをされたのに、どうして違う男の顔が過ぎるんだ。
それを認めたくなくて、考えないように頭を振った。
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