第13話

家が近所なのを知ってから、最近ずっと家の前で本を読みながら待つ男が一人。



「毎日毎日来なくていいんだけど」



「遠慮すんなよ。照れてんの?」



本を閉じて、無表情のままふざけてる男が、ニヤリと笑った。



ため息を吐いた私の隣に並んで、顔が近づいた。



ちゅっと小さく唇が当たった。



「なっ!?」



「隙だらけ。おはようのちゅーいただきました。はよ」



何が〝はよ〟だ。



何がそんなに楽しいのか。無邪気に笑うな。



恨めしい目で見て、何も言わずそっぽを向いて歩き始める。



隣をキープしながら歩く葛城琉玖夜を、チラリと盗み見る。



無駄にイケメンなのがほんと腹立つ。



ずっと無表情で感情が読みづらいし、可愛げがないと彼の友人達は言うけれど、意外によく笑う事に気づいた。



不真面目なくせに、よく本を読む。授業もちゃんと出てる。



悪いんだかそうじゃないのか、その辺はよく分からないけれど、あまり悪い噂は聞かない。



モテるらしいし。



何で私なんだ。



目立たないように、霞むようにわざわざ地味にしているのに。



よりによって、何で私みたいな地味な女に目をつけたんだろう。



人で遊ばないで欲しい。彼等は女なんて選り取りみどりのくせに。



学校に着いてすぐに、人懐っこい笑顔が近づいてくる。



「美遥ちゃぁーん、おはよぉーっ! て……何で琉玖夜と一緒っ!?」



岸宮玲だ。



「いいだろ? 心配すんな、これから毎日だ」



優位に立ったとでも言ったようなドヤ顔で、葛城琉玖夜は口の端を上げてニヤリと笑う。



「琉玖夜ばっかずるーっ! いいなぁー……つかさ、美遥ちゃんて、琉玖夜の事好きになっちゃった?」



「え? な、何で?」



「だってさぁ……毎回琉玖夜ばっか特別扱いすんじゃん」



「し、してないっ!」



唇を尖らせてむくれる岸宮玲に言われ、力いっぱい否定する。



そんな扱いした事ない。



たまたま彼が助けてくれたり、たまたま夜に会ったり、自分から行動するなんてしてない。



不可抗力だ。絶対そうだ。



「それなら、俺とデート、してくれるよね?」



満面の笑み。可愛らしく無邪気な笑顔なのに、どこか意地悪で。



まるで責められているように感じた。



「……わ、わかった、わよ……」



そう言うと、隣にいた葛城琉玖夜が「お人好し」と小さく舌打ちをした。



こうして、私は岸宮玲とデートをする事になった。



全く、何やってんだか。



ここまで来たら、もうヤケだ。



全員とデートくらいしてやろうじゃないか。



キスまで許してしまったんだ、デートくらいどうって事ない。

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