第二章

第8話

図書室の、いつもの場所。



噛み痕を隠すように、髪を下ろしているから隠れているけれど、髪が気になって本が読みづらい。



座って本を読む私の上から、影が差す。



「あんたさぁ、最近私に会わないようにしてるでしょ?」



唐突に頭上からする声に、体が強ばる。



見なくても分かる。小さな頃から、ずっと私を縛り付ける声。



「ほんっと、可愛くない。あんたみたいなのが妹とか、マジで迷惑。こっち来な」



腕を掴まれ、引っ張られるように図書室を出た。



外に出ると、腕を離されて目だけで着いて来いと言われているようだった。



私は、まだ弱いままだ。小さい頃の、あのまま成長出来ずにいる。



人気のない場所といえば、体育館裏。そこには小さな倉庫のようなものがあった。



その前に、複数の男子生徒。ニヤニヤと嫌な笑顔で笑う。



「マジでやっていいん?」



「つか、めちゃくちゃ地味じゃね?」



「いやいや、こういうのもたまにはいいんじゃね? 逆に燃えるわ」



頭が無駄にハッキリする。



姉の玩具の次は、この人達の玩具になるんだと。



変に冷静な頭で考え、理解し、諦める。



私は、姉には逆らえない。



体にそう、刻みつけられているから。



「じゃぁ、よろしく」



「はいはーい。じゃぁ、妹ちゃん、行こっか?」



背を向けた姉。そして少し顔だけ振り返り、ニヤリと悪魔のように笑った。



「うわぁ、震えてんじゃん。可愛い〜」



「大丈夫大丈夫。俺等優しいし、痛くしないからさ」



肩に手を回され、倉庫へ連れていかれる。



怖くて、震えが止まらない。



本当の恐怖。



葛城琉玖夜の時とは、全く違う。



気持ち悪い。どこを触られても、鳥肌が立って、吐き気すらしてくる。



埃っぽいマットの上に押し倒される。



私は、抵抗する為に体を動かそうとするけれど、怖さが体を完全に支配していて、動く事すら出来ずに、涙だけが溢れて止まらない。



「泣いてる女犯すのって、マジ興奮するわ」



「しかも外でとか……ガチでヤバい。俺、もう勃ってきたわ」



「お前、早すぎ。まぁ、俺も半勃ちだけど」



私の体を跨いだ男が、私を見下ろした。



「おら、もっと抵抗しろよ、つまんねぇだろうが」



先程までの優しい言い方が嘘かのように、乱暴な口調でいやらしく笑う。



―――パンッ。



頬が熱い。殴られた。痛みで恐怖が倍増し、歯がガチガチと鳴り、涙がまた溢れる。



「あーあ、可哀想に。お前あんまやりすぎんなよ」



そう言いながらも楽しそうな声がした。



「いつまでも喋ってても意味ねぇから、始めようぜ」



「いっぱい可愛がってあげるからね」



もう駄目だ。何も考えたくない。



我慢していれば、すぐに終わるはずだから。



今までも、我慢していればなんだって乗り越えてこれた。



大丈夫。大丈夫だ。



―――ビリビリッ!



制服が力任せに引き裂かれる。



ブラウスのボタンが飛び、下着が露になる。



鎖骨辺りに舌が這う感覚に、ゾワリとして気持ち悪さにまた涙が出て、呻く。



「地味な癖に、肌やべぇくらいスベスベじゃん。やらしい体しやがって」



「これめちゃくちゃ当たりじゃん」



「あいつよりいい体してんじゃね?」



そんな褒め言葉なんて、何も嬉しくない。



もう一人が足を撫で、こちらにも舌が這う。



好き勝手に体を触られ、吐き気が止まらない。



「ぃや……た、すけっ……」



小さくて、消え入りそうな声を必死で絞り出す。



「バっカじゃねぇの? こんなとこにわざわざ助けが来るわけねぇじゃん」



「そうそ。元々ここって滅多に人来ないし、穴場だから、ヤリ始めたら、みんな空気読んでくれるんだよね〜」



「諦めな、妹ちゃん。すぐ気持ちよくなるからさ」



諦めたはずなのに、やっぱりどうしても嫌で、怖くて、苦しくて、辛い。



助けて。



そう思った時、頭を過ぎるのは、あれだけ拒否していた男の顔だった。

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