第5話

毎日毎日ウンザリするくらい、代わる代わる彼等に絡まれるようになり、そしていつの間にか〝葛城琉玖夜のグループが囲う女〟という噂が流れているのを耳にした。



正直、ほんとにほんとにほんとに迷惑。



何故彼等は、私を放っておいてくれないのだろう。



そして私は、何故彼等と屋上でお弁当を広げているのか。



「あーっ! それ俺の焼きそばパンっ!」



「うっせーな、早いもん勝ちだろーが」



騒がしい。



私は静かに食べたい。しかも一人で。



「なぁ、その卵、食わしてよ」



いつの間にか、物凄く近くに接近していた葛城琉玖夜が、私の耳元でそう言う。



卵焼きを掴んだ私は、そちらを見た。



「何で?」



もう敬語を使うのが馬鹿らしくなったので、最近はもうどうにでもなれというヤケがほとんどで、タメ口になっていた。



「美味そうだから。俺、売ってるもん以外で、手作りのもん食った事ねぇんだよ」



「お、珍しいじゃん。琉玖夜って手作りのもんは、何入れられてるか分かったもんじゃねぇって、絶対食わなかったのに。地味子のはいけんの?」



「あー、早く食わして」



口を開けて待つ葛城琉玖夜に、私は多分、物凄い嫌な顔をしていたのだろう。



斜め前にいた山勢春樹に「うわー、すっごい嫌そうな顔」とからかわれる。



私がなかなか口に入れないのに、ずっと待っている男の口に、仕方なく箸を突っ込む。



「んー、やばっ、これうまっ!」



いつもクールで無表情ばかりの男が、無邪気に目を輝かせているのが新鮮だった。



自分で作った料理を褒められたのが初めてで、少しむず痒くて、変な気分になった。



「ねぇねぇ、俺にもちょーだいっ! ダメ?」



いつの間にか隣に迫っていた岸宮玲が、人懐っこい笑顔で身を乗り出してくる。



小型犬が餌をねだる絵が頭に浮かんで、少し笑う。



「あ、今笑った。かっわい〜」



言われ、目を逸らす。



自分が可愛いのを分かっていてやっているんだろうな。確信犯か。こうやって女の子につけ入るんだろうな、この男は。



「卵焼きぃ〜っ! 早く早く〜」



駄々っ子のように騒ぎ出す男の口に、またしても卵焼きを突っ込む。



私は何をしてんだ。



駄目だ。何か、この人達といる事に慣れ始めている。



しっかりしろ私。何を和んでしまってるんだ。



「ちょっ!」



「動くな、寝ずらい」



いやいや、何を当たり前みたいに膝枕の体勢をとっちゃってるんだこの男は。



「あーっ! また抜け駆けっ! ずるいっ!ずるいっ! 俺もするーっ!」



空いていた隙間に頭を捩じ込むように置き、寝転ぶ岸宮玲。それを眉間に皺を寄せて文句を言う葛城琉玖夜。



あー、ほんとにうるさい。ほんとどうにかしてほしい。



とりあえず抵抗は無意味だと最近悟ったので、持参した本を開き読み始める。



もう知らない。無視するに限る。



本に意識を向けていると、凄く視線を感じて、そちらをチラリと見る。



その男と目が合う。



山勢春樹。こちらをじっと見つめ、誰もが虜になりそうな爽やかで優しそうな顔で、ふわりと笑う。



胡散臭い。そう思ってしまった。この笑顔には、何か裏がある気がした。

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