第27話

何度目かの絶頂を迎えた頃、足から力が抜けて地面に膝をつく。



その拍子に、中に入っていた律樹の昂りが抜かれる。



「おっ、と……大丈夫?」



「り、つ……」



ボーッとする頭で地面を見つめる。



少し間があり、私の体が浮き上がる。



抱き上げられている。



「ごめん……乱暴にしすぎた……」



どうして傷ついた顔をしてるんだろう。



律樹を気遣えなかった私が悪いのに。



律樹に抱き上げられながら、律樹の温かさと揺れの気持ちよさに、ウトウトしてくる。



微睡みながら、車の音を耳にしたのが意識があった最後の音だった。



目を覚ますと、見覚えのない場所だった。



ベッドに寝かされているのは分かった。



フカフカのベッドが気持ちよくて、寝返りを打つと椅子に座ってスマホを見つめる律樹が目に入る。



手を伸ばせば届く距離にいる律樹に、ゆっくり手を伸ばして頬に触れる。



「っ!? び、びっくりした……起きたか。体、大丈夫?」



「うん、大丈夫だよ。ここは?」



「あぁ、こないだ言ってた部屋だよ。やっと完成したから」



あんな事があって、潰す事も考えたけれど、小さい頃の思い出もあるからそれも出来ず、改装という形を取ったらしい。



「あのさ……その……俺、美都と和真が楽しそうにしてて……だから……」



「律樹……」



怒られた子犬みたいな律樹が可愛くて、ベッドから体を起こす。



「ぎゅって、して」



律樹の方に両手を広げて伸ばす。



呆気に取られている律樹が、ハッとして私に近づいてベッドへ座る。



遠慮気味に、優しく抱きしめられる。



無言の時間。



二人の心音と、時計の音だけが耳に響く。



「私もちゃんと気遣ってあげれなくてごめんね。でも、心配しなくても私は律樹しか見てないよ。ヤキモチは可愛くて、凄く嬉しいけど」



「何で美都が謝るんだよ……それに、か、可愛いとか……」



少し拗ねたみたいな声がして、少し笑ってしまう。



「ただ、あんまり人に見られるのは、困る……かな……」



「そこは……すみません……」



素直に謝られると、拍子抜けしてしまう。



しかし、それより気になる事がある。



「女って……バレたかな……」



「あー……多分……」



さて、どうしたものか。



バレてどうにかなるかとかではないけれど、バレないに越した事はない。



「でも多分大丈夫な気がする。和真は人の事やたら根掘り葉掘り聞くタイプではあるけど、それをペラペラ話すような奴じゃない」



確かに、彼はいい人だと、少し話しただけでもそれが分かった。



それにしても、見苦しいものを見せてしまったのは、悪いと思う。



明日謝る事にしよう。



「何キョロキョロしてんの?」



「何か、この部屋だけでも生活していけそうなくらい、大きいね」



「ああ、うん。風呂もトイレも、キッチンもちゃんと付いてる」



それだけ言うと、律樹がベッドに正座をした。



「えっと、ですね……この部屋で、一緒に住まないか?」



唐突に言われ、私はただ目を見開くしか出来ずに、声にならない。



「この場所が嫌なら違う場所でもいい。美都と離れてる時間が、なくなればいいって思うのは、気持ち悪いかもしれないけど、少しでも長く一緒にいたいんだ」



律樹はいつも自分だけがそう思っているかのように話す。



私だって、同じ気持ちなのに。



「場所なんて、関係ない。私も律樹とずっと一緒にいたい。私でよければ、よろしくお願いします」



同じように正座をし、頭を下げた。



そしてまた笑った。

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