第25話
制服の下に隠れた約束に、つい自然と触れてニヤけてしまう。
制服で隠れて見えないよう、首に掛けている律樹からもらった、大切な宝物。
東部累が奇行に走り、放送室にそれを止めに紅羽が行ってしまって、私は律樹と二人で食後にまったりしていると、律樹が友人であろう人にサッカーに誘われ、楽しそうに走り回る律樹をグラウンドの端にある、ベンチで見学中だ。
もちろん、病弱設定な私は参加をお断りさせてもらった。
そもそもサッカーなんて出来ない。
元気だなと微笑ましく思って見ている私の耳に、フェンス越しに見ていた女の子達の黄色い声援がする。
その中には、もちろん律樹の名前を叫ぶ子も何人かいた。
なかなかモテるんだなと感心する。
その中で、気になる子がいた。
艶々の綺麗な黒髪を肩の辺りで切り揃え、華奢で小柄で大人しそうな可愛らしい女の子。
「あんたまた入谷先輩見てんの?」
「熱い視線で見つめちゃってー」
「今からでも「私を奴隷にしてくださーい」って言ってみたら?」
「ちょ、ちょっと、やめてよーっ!」
楽しそうに笑い合う友達の輪の中で、照れながらその女の子も満更でもなさそうに笑う。
複雑な気分で、フェンスの方を横目でチラリと見ていた。
「ご主人様モテモテじゃん」
突然掛かった声にそちらを向くと、知らない男子生徒が立っていた。
「律樹の奴隷君だよな? あれ? つか、奴隷って首輪してなかったっけ? あ、突然ごめんな。俺、律樹と同じクラスの
私が呆気に取られて黙っていると、その男子生徒は自己紹介を始めた。
私も軽く返すと、わざわざ断りをいれて隣に座った。
「美都って呼んでいいか? 俺も和真でいいぜ。つか、美都って何か綺麗な名前だな。上品っつーか、なんつーか」
そんな事言われたのは初めてで、何も言えずにいると、和真先輩は気にする事なく話を進める。
その時、律樹がシュートを決めたようで、フェンス越しの女の子達が黄色い声援を上げた。
「相変わらず、すげぇな。奴隷としてはどうよ、ご主人様がモテるってのは」
「和真先輩もモテなくないでしょ? 爽やかイケメンじゃないですか」
優し気な眉辺りまで伸びた前髪を、黒の細いピンで留めて、人懐っこそうで爽やかな顔は明らかにモテるはずだ。
「まぁ……でも、俺うるさいって言われるから、律樹みたいにはモテないな。後、俺どうも敬語使われんの苦手なんだよな。だからタメ語でいいし、先輩もいらねぇよ。つか、お前もモテるだろ」
「は?」
「俺のクラスの女子の中にも、お前が格好いいって言ってた奴いたぜ」
正直、モテるとかモテないとか私は拘らないけれど、やっぱり男の子は気にするのだろうか。
モテないよりはモテるに越したことはないだろうけれど、それが恋人となるとまた別の話になってくる。
「けど、ありゃ彼女なんか出来た日には、彼女は大変だなぁ……」
彼女と聞いてドキリとする。
その彼女が隣にいて、それも男のフリをしているなんて、夢にも思わないんだろう。
「なぁなぁ、そういやお前、彼女は?」
何でこんなに聞いてくるのか。前のめりで近づいて目を輝かせる姿が、まるで犬みたいで尻尾が見えるようだ。
「恋人は……いる」
敬語を使う度に「敬語」と指摘されるので、ぎこちなくはあるものの、タメ口で話す事に気をつける。
そして恋人と改めて口にするのは、地味に照れる。俯きながら言うと、和真は、ますます楽しそうに距離を詰めてくる。
「どんな子? 可愛い系? お前だったら、綺麗系? 年上? 年下? 出会いは?」
「そんなに、気になるもの?」
苦笑しながら言うと、和真は当たり前だと言うように、眉をキリっとさせた。
「素敵な人、だよ」
「だいぶ端折ったな……。まぁ、いいか」
「何の話? つか、和真近い」
いつの間に来たのか、律樹が前に立っていた。
「美都は彼女持ちなのに、俺らにはいないとか……悲しいな……強く生きよう、同士よ」
「っ……お前と一緒にすんな。俺には可愛くて美人な彼女がちゃんといる」
不満そうに言った律樹に、和真は目を丸くしてポカンとした後、大袈裟なくらい驚いている。
「はっ!? お前彼女いたのっ!? 初耳なんだけどっ!」
大きな声は、もちろん後ろのフェンス越しに見ていた女子達にも聞こえていたようで、小さな悲鳴が聞こえる。
「俺だけいないとか悲しすぎじゃね? 何この惨めな感じは。いいよなぁ……ずりーっ! 俺も可愛い彼女欲しいっ!」
心底悔しそうに和真が叫んでいる中、私はチラリとフェンスの向こう側にいる、先程の女の子を見る。
今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「写真とかねぇの?」
「ない」
「絶対嘘だろ。いいだろちょっとくらい幸せ分けろー、一人占めすんなー」
「うるさい。もう昼休み終わるぞ。ほら、解散解散」
拗ねたように口を尖らせて、和真は渋々立ち上がる。
「あ、和真ちょっと待って」
和真の髪留めが取れかけていたのが目に留まり、整える為に近づいた。和真もそれに気づいてか、私より高い背を少し屈める。
「お、サンキュー。悪いな」
「わっ! ちょ、やめてよ。髪がくしゃくしゃになるっ……」
わしゃわしゃと髪を混ぜられ、私は髪を整える為に頭を撫でる。
けれど、その手はすぐに掴まれた。
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