第24話
驚きのあまり、だらしなく口が開きっぱなしになる。
「なんちゅー顔してんだよ」
「だって……ていうか、これ、部屋?」
予約したという、高級そうなホテルの一室。
ホテル自体入る機会がなくて、しかも物凄く広くて、これが一部屋とは思えない。
お金持ちは、普段からこんな贅沢をしているのか。
「お金持ち……怖い……」
「何だそれ」
笑う律樹に目を向ける。
「何か……落ち着かない……」
「正直なとこさ、俺も落ち着かないんだよ。金がない家じゃないのは認めるけど、普段からこういう生活ばっかしてる訳じゃないし、どっちかっていうと、奏夢とか累みたいに派手に金使うようなのは苦手な方だったりする」
頭を掻きながら、少し照れたような顔で小さく「今日は、特別だし」と呟いた。
たまに見せるこの照れた顔と仕草に、可愛さで胸がザワつく。
さっきから、ちょっとだけ違和感がある。
律樹が少し挙動不審というか、落ち着きがないというか。
気になる。
「律樹、さっきからどうしたの?」
「ちょっと、待って。今心の準備中」
何を言ってるんだろうか。
心の準備とは、何の事なのか。
深呼吸を始めた律樹を見ながら、ただ待つ。
「よし。……美都」
「何?」
突然律樹が近づいてくる。
「まだ、付き合い始めたばっかだし、まだまだガキだし、頼りないかもだけど。その……」
私の手を取り、指を律樹の指が撫でる。
「俺、これからもずっと傍にいて欲しい人は、美都だけしか考えらんない。だから、美都の薬指、予約させて欲しい」
まるでプロポーズの予約のような言葉を、真剣に言う律樹に、私は少しだけ固まる。
そんな事を言われるとは思わなかった。
律樹の事を好きなのは変わらないし、他に誰かをこれだけ好きになれるかと聞かれたら、今の私には、律樹しか考えられなくて。
だけど、律樹の心がこれからずっと私にだけ向いているって、確証はなくて。
ずっと律樹に好きでいてもらえるような魅力が、私なんかにあるのかすら分からない。
どう言えばいいか、分からない。
嬉しいのに、どうしたら、いいのか。
「美都? 大丈夫か?」
「律樹……私、どうしたらいい?」
聞かれた律樹が目を見開く。
「ごめんっ! 困らせるつもりはなくてっ! お前が泣く程、そこまで嫌だったなんて、思わなくてっ……。俺、一人で舞い上がって、また、勝手に勘違いして、暴走したっ……ごめん……」
違うのに、声にならない。
悲しいわけじゃないし、そんな状況でもないのに、何で泣いているんだ。
自分がこんなに泣き虫だとは、知らなかった。
律樹といると、自分の知らない自分が現れる。
違うと言いたくて、律樹にしがみついて首を振り続ける。
「美都……どうした?」
頭を撫でられ、溢れる涙を必死に止めようとする。
あぁ、そうか。
こんなに求められるのも初めてて、律樹だけが私を必要としてくれて、嬉しくて。
その反面、それがなくなると思うと、怖い。
胸がいっぱいで、苦しいんだ。
私が泣き止むまで頭を撫でてくれる律樹。
こんなに優しい人に、ここまで愛される自分は、物凄く幸せな奴なのではないのだろうか。
それを素直に受け止めないのは、逆に失礼なのではないか。
そんな事をずっと考えている間に、涙も引っ込んでいた。
「律樹」
「え、あ、はい」
律樹から体を離し、袖を掴んで目を見つめる。
「私は男装してる変な女だし、特別可愛いわけでも綺麗でもないし、何か飛び抜けていいとこがあるわけでもない。けど、それでも私を思ってくれるなら、私もちゃんとそれに答えたい」
律樹が私を求めてくれる限り、私も全力で返す。
一人でいた頃の私の冷えた心に、温かさをくれたのは、律樹だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます