第22話
〔入谷律樹side〕
待ち合わせ場所に早くついた俺は、美都の普段と違う姿が見られるワクワクに、胸が躍っていた。
もちろん、普段の美都も可愛いと思うし、それはそれで満足してる。
それでも、また違った姿が見られると思うと、楽しみなのは当たり前なわけで。
スマホを弄りながら、時間を潰していると近くで小さな声がした。
「お、お待た、せ……」
声のする方へ目を向けると、モジモジしている美女が立っていた。
息を飲むという経験を、今、ハッキリとした気がする。
誰だか分からないわけじゃない。ただ、あまりにも綺麗で、そこだけ時間が止まったような感覚に陥る。
言葉にならない。危うくスマホを落としそうになった。
「律、樹? あの……分かる?」
「あ……うん……大丈夫、分かってるっ! 分からないわけない、からっ!」
必死に言葉を発するけれど、しどろもどろになりながらも、美都を見つめる目は離せない。
女って、怖い。
俺は呆然として動かない体を無理矢理動かし、やっとの事で美都の手を取る。
「美都……めっちゃ綺麗……可愛い……ヤバい……」
頭の悪い話し方になる。語彙力が死ぬとはこの事だ。
でも、正直な感想だった。
「っ……あ、あり、がと……」
赤くなって少し目を逸らす美都が、たまらなく可愛くて、抱きしめたい衝動を誤魔化すように、美都から目を離して歩き出す。
「とりあえずっ、飯っ、食うかっ!」
「あ、うん。そうだね」
返事はぎこちないけれど、俺が握る手をしっかり握り返す美都の手はいつもの細くてしなやかだ。
俺は今日一日、理性を保っていられるだろうか。
元々、男女両方からモテるし、目を引くけれど、今日の注目度は普段の比じゃない。
「ねぇ、律樹。私、やっぱり変かな? すっごい視線感じるんだけど……気持ち悪い、かな、やっぱり……」
背丈はそんなに変わらないのに、少し俯き加減だからか、上目遣いのようにこちらを不安そうに覗き込む姿が、物凄く強烈だ。
「あのなぁ……普段そんなネガティブな事ほとんど言わないのに、何で今日そんなネガティブ発言するかね。俺、綺麗だって、可愛いって言ったろ?」
「でも、それはほら、彼氏だから……」
「美都は、綺麗だよ。マジで」
次は美都が絶句する。そして、ありえないくらい真っ赤になった。
「ば、バカ……」
空いている方の手で顔を隠そうとしながら、目を逸らして言った。
その可愛さは、反則だ。
ヤバい。キス、したい。
「律樹?」
「可愛すぎるんだよっ、お前……」
手を引いて足早に歩く。
このままじゃ、まともにデートどうこう言ってられなくなる。
今日はちゃんとデートするって決めたから、この時間を無駄にしない。
平然を装いながら、軽く食べた後、お互いだいぶ落ち着いたので、ゆっくり街を歩く。
美都がデート初体験だという事と、せっかくお洒落にしているので、落ち着いた場所の方がいいと思っていたら、美都が行きたかったらしい、水族館へ行く事になった。
「ここふれあいとか出来るらしいよ」
「ふれあいって、触るの? 魚を?」
ありえないと言ったような顔で、美都が俺を見る。
「サメも触れるらしい」
「えっ!?」
コロコロ変わる表情が可愛くて、笑ってしまう。
一通り見て回って、ふれあいコーナーで心なしかはしゃいでいる美都に、少し近づいた。
可愛すぎる。
普段クール系だからか、こんな姿が見れるのが珍しいのと、俺だけが見れるんだと思うとたまらなくなる。
「何か、サメもこうしてたら可愛く見えるね、律……っ……」
思っていたより近くに顔があった事に、驚きながらも赤くなる美都に、一瞬だけ口付ける。
「ちょ、律樹っ……」
「このくらい、大丈夫だよ。みんな触るのに夢中だから」
そう言ってまた軽くキスをした。
やっぱり駄目だ。
このまま純粋なデートだけで終われる気がしない。
それは美都も同じだったようで、何か言いたそうにモジモジしながら、俺を目だけ動かして見る。
その瞳には、何処か熱を帯びていた。
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