第21話
選んだ服に素早く着替え、用意された車に遠慮気味に乗り込む。
「あの……何処に行くんですか?」
そう聞くと、運転するその人は短く「すぐ着きますから」と言ったっきり、何も話さなかった。
少し気まずさがあったものの、言われた通り、車は直ぐに止まった。
促されて車を降り、その人について行く。
煌びやかでお洒落なお店の扉をその人が開けてくれて、私はその店にゆっくり足を踏み入れた。
「あぁ、来たわね。この子が律の彼女? 顔をよく見せて。へー、弄り甲斐がありそうねー」
突然顔を両手で固定され、身体中を観察される。
「あぁ、ごめんね。私、律のいとこで、
明るくそう言った綺麗な女性に、私は頭を下げて挨拶をした。
彩愛さんに案内され、私は奥にあるベッドとカーテンがある個室へたどり着く。
「とりあえず、中に用意してある服に着替えてきて」
そこからは初めての体験ばかりで、唖然としているうちに、あっという間に自分が自分じゃなくなって行った。
「うんっ! 完璧っ! いやぁー、素材がいいから、気合い入れすぎちゃったわ。楽しかったーっ!」
満足そうに言った彩愛さんが、私を鏡の前に連れて行く。
「律樹が卒倒しちゃうくらい、いい女になったよ。惚れ直させちゃいな」
鏡を見た。
これは、誰だ。
ショートの髪はウィッグを付けているから、黒髪のロングヘアになっていて、ナチュラルで落ち着いた雰囲気のメイク、そのメイクに合わせたのか、年相応の中に大人っぽさが混じった、初めて袖を通す、普段なら絶対着る事のないワンピース。
別人。これは、律樹に気づいてもらえるのか、不安で仕方ない。
女は化けると言うけれど、これは化け過ぎだ。
我ながら、本当に誰なんだレベルだ。
固まっていると、彩愛さんが肩をポンっと叩いた。
「さぁ、律を早く驚かせてやんな」
「あ、あの、お金……」
「いいの、プレゼントだから。どうしてもって言うなら、律に請求するから。ほら、行った行った」
深く頭を下げ、私は待っていた車に再び乗り込んだ。
車の外を見ながら、着慣れない服に履きなれない靴、見慣れない顔にムズムズする。
妙な緊張感に、いたたまれなくなる。
律樹に会うのか、不安で、怖くて、緊張で心臓が口から出そうだ。
そんな私をよそに、車は待ち合わせ場所に着いたようだった。
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