第五章

第19話

自分は直接関係ないのに、無駄に緊張してしまう。



私がこんな大事な場面に、立ち会ってもいいのだろうか。



律樹の少し後ろで待機しているけれど、私より緊張しているであろう、律樹のそれが伝わってくる気がする。



見覚えのある男とその男の前を歩く、こちらも見覚えのある、小柄で可愛らしい女子生徒。



眠そうに欠伸をしながら頭を掻くその男、鳳月奏夢が私に視線を向けて、片方の口角を上げる。



「ほー、まだその格好してんの? 卒業まで男でいる気か?」



「そのつもりですが、それ貴方に関係あります?」



「生意気な奴。律樹、お前何でコレがいいんだよ。可愛げがねぇ」



鳳月奏夢と私の間にいる律樹は溜息を吐き、女子生徒はオロオロしている。



そういえば、鳳月奏夢の奴隷であるはずの彼女の首には、首輪は存在しなかった。



もちろん私もだけど。



そこから二人の関係を想像するのは、簡単だった。



恋人、なのだろう。



仕切り直すかのように、律樹が彼女に少し歩み寄る。



「わざわざ呼び出してごめんね。ちゃんと、謝りたくて……」



何も言わず、ただ彼女は律樹の言葉を聞いている。



改めて見ても、やっぱり可愛い。



ふわふわしていて、男は誰もがこいう子を好きになるであろう、何処か儚げではあるけれど、柔らかい印象の可愛い系女子。



私とは正反対で、つくづく自分が女である事が恥ずかしくなる。



「奴隷制度っていう状況を利用して、君に酷い事をして……あんな事、するべきじゃなかった……」



深く頭を下げる律樹、戸惑うように律樹に手を伸ばす彼女。



「あの、やめてくださいっ! 頭を上げてくださいっ! 私は、何とも思ってないですからっ!」



それでも頭を上げない律樹の、制服から出ているフードを、いつの間にか律樹の側まで来ていた鳳月奏夢が掴む。



「ぐっ、ちょっ、お前っ!」



「美颯がいいっつってんだから、もうやめとけ。これ以上やったら、美颯が困るだろうが」



本当に彼女が大事なんだろう。



噂で聞いていた彼のイメージとは、なかなか結びつかない。



だからといって、いい印象はないけれど。



まだ辛そうな顔をしている律樹に、彼女はふわりと笑う。



「先輩、もう私の事で悩まないで下さい。私、今凄く幸せなんです。だから、先輩も苦しむのは終わりにして、幸せになって下さい」



可愛い笑顔を向けた彼女は、本当に幸せそうで、女の私ですらドキリとした。



「自分のせいで誰かが苦しむのは、やっぱり嫌ですからね。私、わがままなんですよ」



ありがとうと呟いた律樹も、ぎこちなくだけれど、清々しくもある顔で笑った。



二人と別れる前に、律樹が突然鳳月奏夢に謝るように言った。



「あ? ちょっと確認しただけだろうが。別にお前の奴隷に手なんか出さねぇよ」



「そういう問題じゃない。人の女の体勝手に触っていい理由にはならないだろ」



少し驚いた顔をした鳳月奏夢と彼女。私は顔が熱くなるのを感じながら、呆気に取られてしまう。



面倒そうな顔で鳳月奏夢が私を見て、一言「悪かったな」と言った。



意外に素直で、私は無意識に「あ、大丈夫です」としか答えられなかった。



彼女が軽く頭を下げ、二人は去って行った。

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