第12話
自分でも何処を見ているのか分からないけれど、気分はいい。
「暑い……はぁ……浸かりすぎたな……失敗しちゃった……」
胸元から風を送ろうと、首元の浴衣を肌けさせた。
扉が開いて、ゆっくりそちらを見る。
「部屋の用意が……っ!!?」
何をそんなに驚いているんだろう。
あぁ、私が制服以外でいる姿を見せるのは、最初に私が熱を出した時以来だったから、少し驚いているんだろうか。
驚くほどの事でもないだろうに、変な律樹。
近づいてくる律樹をただボーッと見る。
「女がこんなはしたない格好すんな。普通なら襲われてんぞ」
私の浴衣の乱れを直して、立ち上がって後ろを向いた。
どうして背を向けるんだろう。
拒絶されたみたいで、嫌だった。
「な、んだよ……」
「律樹? どうしたの? 怒ったの? 嫌だ、もうしないから、怒らないで……」
今日の私はつくづく変だ。
律樹への明らかな好意を自覚し、今まで奥にしまい込んでいた女の部分が、どんどん隠せなくなって、顔を出し始める。
律樹に拒絶されるのも、嫌われて捨てられるのが、怖い。
律樹と一緒に、いたい。
一番じゃなくていい。律樹の大切な人の次でも、いいから。
大きなため息が聞こえ、小さく「クソっ」と呟く声がした。
嫌われた。私が面倒くさいから、嫌われたんだ。
そう思うと、鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。
縋り付くように服を掴んでいた手が、ゆっくり外されて、気づいたら目線が天井を見る形になっていた。
「お前、何なんだよっ……。人の気も知らないで、可愛い事するし、今もこんなっ……。頼むから……あんま煽んなっ……」
「律、樹……?」
「お前を、傷つけたくない……お前だけは、大事にしたいんだよ……」
首元の首輪に触れ、律樹はそれを簡単に外した。
「こんなもんで繋がる関係じゃなく、俺はお前と一緒にいたいんだよ」
苦しそうに眉を寄せて、律樹は呟いた。
「好きなんだ……美都が……。好きな奴が無防備に俺を煽れば、俺は我慢なんか出来ない。いや、しない。だから、俺に酷い事させんな……」
そんな事言っていても、多分律樹は我慢する。自分を押さえつけて、苦しむんだ。
今もまだ、彼女の事で苦しんでいるように。
「ほんと、優しすぎるよね、律樹は……」
意味が分からないといった顔で、私をただ見つめる律樹は何も言わない。
「誰にだって欲望はあるし、暴走だってしないとは限らない。全てがいいとは言わないけど、別に全てが悪いわけでもないよ。少なくとも、私は律樹に酷くされても構わない」
「お前、何……言って……」
律樹の首に手を回して、少しだけ力を入れて引き寄せる。
「律樹……好き……酷くされても、律樹の傍にいたい……。それに、性欲があるのは男ばっかじゃないんだよ」
どうしよう。自分で言ったのに、今更恥ずかしさが込み上げる。
でも、それと同時に体は熱くなっていく。
ゆっくり顔が近づいて、唇が触れて離れ、すぐに激しく貪るような、噛み付くようなキスが始まる。
「ンんっ、はっ、ぅんっ……っ……」
「ずっとっ……こうっ……んっ……したいって……汚い事ばっか……ふっ、はっ、考えてた……」
「汚くなん、かっ、ぁっ、ん……ないっ……」
深く絡みつくキスが終わる事はなく、角度を変えては、何度も何度も繰り返される。
「はぁっ……ねぇ……じゃぁ、私の事考えながら、一人で……シた?」
意地悪な気持ちが顔を出し、律樹の唇を舐め上げる。
あからさまな挑発。
最初は驚きに目を見開いていた律樹だったけれど、すぐに片方の口角を上げて妖しく笑う。
その顔が何処か妖艶で、煽られた体がゾクリと震えた。
「それ聞いて、お前はどうしたいわけ?」
低く響く囁き声が耳を擽り、ゾクゾクする。
「律樹が私でって考えるだけで……興奮しちゃう……」
負けじと私も律樹を煽る。
律樹の前では、私のいやらしい女の部分を隠す事はしない。
全てを見せて欲しいから、私も全てを見せる。
汚く黒い部分までも。
「っ……お前……タチ悪過ぎだろっ……」
可愛い人。
たまらなく可愛い。
「いつまでも主導権握れると思うなよ」
「えっ……わっ!」
素早く浴衣の帯を抜き取られ、手を頭の上で拘束される。
「やべぇ……むっちゃエロい格好……」
肌けた浴衣からは、私の肌が顕になっている。
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