第10話

通された部屋は本当に立派で、ここに来るまでに見るもの全てが、珍しくて目を見張るばかりだ。



「何か色々凄すぎて、色々とコメントがし辛いですね」



「まぁ、正直普通よりはデカい家ってのは自覚してますね。つか、累とか特に奏夢の家はもっとデカいけどな」



想像が出来ないし、出来そうもない。



私が見てきた世界と、律樹がいる世界は全然違うんだ。



「なぁ……何、考えてる?」



「世界が、違うなって……。私はどちらかと言うと、真逆の世界にいたから。貧乏って言葉は、私にはまだ軽いくらいだから」



今となっては、悲しいとか辛いとかはないけれど、幼かった私にはどうにも出来なくて、泣いてばかりだった。



母親は性に奔放な人だった。



物心ついた時から、父親が誰かなんて分からなくて、母親の愛情なんてものもなかった。



でも、最低限の食べ物だけは与えられていた。



それでも母親に愛して欲しくて、構って欲しくて、いい子でいようとしたし、ちゃんと言う事も聞いて大人しくしていたし、出来る事は何でもした。



男に夢中で、色んな男と関係を持っていた母が、私に目を向ける事はなかった。



そして、私が小学校へ通い始めて少し経った頃、母は男と消えた。



私は、捨てられたのだ。



それを知り、不憫に思った大家さんが唯一私の環境を理解し、色々気にかけてくれていた。



前々から度々、母がいない時にお菓子や食べ物をくれたり、遊んでくれていた優しいイメージがあった大家さんに、私は心を許していた。



けれど、それには裏があった。



大家さんはあろう事か、世話をする代わりに、私の体を触り始めたのだ。



最初、私は何をされているのか分からなくて、されるがままになっていた。



生きなくちゃ、いけなかったから。幼い私は、この男に頼るしかやり方を知らなかった。



低学年の間は、ずっと触られ続けた。もちろん、生理現象ではあったけれど、初めての快感もその男から教えられた。



ただ、高学年になった頃、男はその先を求め始めた。



さすがに意味が分かってきていた私は、初めて抵抗して、逃げた。



夢中だった。



交番に駆け込み、助けを求めた。



これが、私が初めて誰かに助けを求めた瞬間だった。



その後は、施設で生活をし、今の高校に入学するのを機に、一人暮らしを始めた。



私がこの学校を選んだ理由は、生活の全てを援助してもらえる代わりに、奴隷制度に参加するという話があったから。



奴隷制度という言葉の現実味の無さに驚いたけれど、その条件を飲む事が私には最善だった。

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