第6話
〔入谷律樹side〕
奏夢に一目惚れした子を奪われてから、奴隷制度に特に興味はなくなった。
けれど、パンを同時に触った事で出会った同性の後輩に、専属を持ちかけた。
どうしてこうなったのかは、自分でもよく分からなかった。
ただ、何となく、そいつが気になったんだ。
男にしてはやたらと綺麗で、線が細くて、妙に構いたくなる。
綺麗な男は俺の周りに結構いるけど、そういうのとはまた違った雰囲気があった。
こいつに、城戸美都に目を奪われたのは確かで、やたらと構いたくなった。
男相手に何をやってるんだという気持ちと、それに抗うようにこいつを気にしてしまう自分。
そのうち、触りたいという欲が自分の中で大きくなっていた。
ほんと、何で同性に対して抱く感情としては、間違いでしかない。
もちろん、そういう奴もいるだろうし、そいつ等をどうこうって訳じゃないけど、あくまでも俺は違う。
違うと思いたいのに、生まれる感情は明らかな好意だと分かる。
友人とかそういう感情じゃないのも、ハッキリしてしまっていた。
「マジかよ……」
まさか、自分にこんな感情があるなんて知らなかった。
なのに、特に嫌悪があるわけでもなく、こいつ以外にその感情が生まれるわけでもなくて。
美都にだけらしい。
「相手は男だぞ……」
戸惑いは確かにあって、拒否する気持ちも多少なりともないわけじゃない。
それでも、会わずにはいられなかった。
奏夢の奴隷に執着していたあの感情とはまた違っているような、同じなような。
複雑に絡み合う感情。安定しない。
アイツが累の奴隷を好きだと言った時、胸が痛んだと同時に、黒いモノが湧き上がってくる感覚がした。
やっぱり、俺はこいつが好きなのだと確信した。
アイツの隣にいるのは、俺じゃなきゃ嫌だと。
「女子かよ……」
男相手にこんな汚い欲だらけの感情を持つなんて、夢にも思わなかった。
戸惑い、混乱、色んな感情でぐちゃぐちゃだ。
そして、アイツは熱を出した。
授業中にスマホが震え、画面を見て、授業などそっちのけで俺は夢中で走った。
『助けて』
何があったかなんて聞く余裕なんてなくて、ただひたすらアイツに会いたかった。
アイツの家で知った秘密。
「女……だった……」
男にしては何処か変な違和感みたいなものがあったのが、しっくり来た瞬間だった。
荒い息で汗ばんだ肌を晒して呻く女。
こんな状況なのに、俺はこいつに欲情した。
「何反応させてんの、俺……」
自傷気味に笑って、その汚い感情に目をつぶって、素早く着替えさせた。
時間が経つにつれて、呼吸も落ち着いて、少しだけ美都が身動ぎをする。
「ん……み、ず……」
寝ぼけているのか、目は虚ろでどこを見ているのか分からない。
「ちょっと待ってて」
髪を撫でてやると、微笑んで頭を擦り付けてくるのが可愛くて、動揺してしまう。
冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを見つけそれを手に美都のところに戻る。
「ほら、飲めるか?」
「む、り……」
仕方なく水を口に含み、美都の唇に唇を合わせる。
水が喉を通ったのを確認すると、名残惜しくある唇を離す。
「綺麗な、顔だな……」
中性的で、美しいという言葉が良く似合う顔を見つめる。
何故女だと微塵も疑わなかったのか。
周りに綺麗な男がい過ぎて、目がおかしくなってるんだろうな。
「案外ストライクゾーン広かったんだな、俺」
奏夢の奴隷の彼女に一目惚れをして、欲しくて、体だけをしつこく抱いて、それでも彼女は奏夢のモノで。
虚しくて、悔しくて、もうどうでもいいと投げやりになっていた。
そんな時に、美都と出会った。
美都といる時間は居心地がよくて、楽しくて、彼女の事すら考える事がなくなった。
美都の事ばかりが頭を支配する。
美都だったらこうなのにとか、美都ならこうするだろうとか、美都の事ばかり考えるようになっていた。
今はもう、美都以外、心に入れる隙間がない。
「乙女だね、まったく……。幸せそうに寝ちゃって。俺はお前に夢中過ぎて辛いよ……」
髪を撫で、また唇に触れるだけのキスをした。
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